第1章

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 お店のたてものに工事が入って、その日はお休みだった。  へやの電気がつかないので、工事の人が、大きいかごに入ったあかりをかしてくれた。冷ぞうこの上においたら、へやはふしぎなだいだい色になった。  することもないので、あたしはあたしのへやの大そうじをした。  うす暗いし、そうじ機も動かなかったので、きれいになったかどうかあんまりわかんない。それでもベッドの下にもぐってごそごそやってたら、食べすぎて穴から出られなくなったくまのお話を思い出した。こんなまっ暗なところで、頭がつっかえたらどうしよう、って思ったら、ちょっとこわくなって、ちょっとおもしろくなって、  「たすけてくれえー」  っていってみた。  そしたら、だれかがあたしの足をがっ、とつかまえて、  「きゃ」  ひきずり出した。  あたりはやっぱりふしぎなだいだい色で、あたしはぼんやりじゅうたんの上にすわっていた。  「大丈夫すか、静江さん、何があったんすか」  心配そうにあたしを見下ろしていたのはこぞうさんだった。  あたしははっとした。かみの毛はちょーてき当にゆわえてたし、ほこりがいっぱいくっついていた。急にはずかしくなって、かみゴムをとって手でとかした。  こぞうさんがあたしのかみに手をのばしてきた。  あたしはびくっと体をひいて、そうじ機の管にしがみついた。  「あ、あ……ありがとね、つるぎ君」  こぞうさんは、ぜったいにあたしたち女の子にさわってはいけないきそくだ。もしさわったりなかよくしたりしてるとこを番頭さんに見つかったら、そのこぞうさんは次の日からいなくなる。いなくなったこぞうさんがどうなるのか、あたしは知らない。  それなのに、こぞうのつるぎ君はにこっとして、平気であたしのかみのほこりをつまんだ。  「静江さん、オレの名前知ってたの、感動だあ」  そうじ機にしがみついたまま、あたしは下を向いた。ほんとは名前でよんだりしてもいけなかったんだっけ。  「……前に番頭さんがそうよんでたから」  それからどうして「たすけてくれえー」なんていったのか、くまのお話からじゅん番にせつ明した。  つるぎくんははじめきょとんとした顔だったけど、やがてぷーってふきだした。  「何それ、ちょ―ウケるんすけどー」  「しーしー」  あたしは人さし指を口の前にあてて、つるぎ君をしずかにさせようとした。  つるぎ君はなみだをふいて、
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