第1章

3/10
前へ
/10ページ
次へ
 「あーだいじょぶっすよ、番頭は朝から競馬だし、おねえさまがたやほかのこぞうは一人も出てきてないし、工事のやつらはさっき飯行ったし、それに電気系統の工事だから、例のシステムも止まってるし」  「システム?」  にかっと、とがった歯が光った。  「カメラとかそういうの。番頭がいつもモニタ見ながらシコってる」  あ、って思った。  いつかのトイレットペーパーの文字を思い出した。 ここは かんし  されている    ばかなあたしは、やっとわかった。  鴎さんはすぐにわかったんだ。  このへやのどっかにカメラがかくしてある。てことは、あたしが仕事でしてることぜんぶ見られてたってことで……ぼんやり考えてたら、はあはあしめった息が顔にかかった。   「つまり、今ここにいるのは、オレと静江さん、二人きり……」  つるぎ君の顔がずいぶん近い。  「あ」  ぎゅっ、とだきしめられた。  「ちょっとちょと、待って」  うでの力がゆるまったので、あたしはさっさと服をぬごうとした。らんぼうにされて、シャツがのびたりやぶれたりするのがいやだからだ。  でも、つるぎ君はぱっとじゅうたんにはいつくばって、  「すいまっせんしたっ、静江さんがあんまりいい匂いなんで、錯乱しましたっ」  頭を下げた。  頭を上げたら、  「けど、静江さん、これだけ教えてください」  ひどくしんけんな顔だ。  「静江さんはあのおまわりのこと、マジに好きなんすか?」  「え?」  あたしはシャツをまくろうとした手をとめた。  「丈一さん、のこと?」  つるぎ君はうなずいた。あたしが返事する前に早口でいった。  「そうです樋口丈一。あいつが何やってるのか、オレいろいろ調べました。あいつはひどいやつです。警察の力をいいように使って金いっぱいとって、女の子をいっぱい売り飛ばして……あ、でも、静江さんが聞きたくないって言うなら言いませんけど。なんつうか、その、静江さんが好きなら、オレは別にいいんす。あいつがあなたにどんなにひどいことをしようと、外でどんなことしてようと、静江さんがあいつのこと好きで今が幸せってんならいいんす、オレも幸せっす。けど、そうじゃないなら……そうじゃないなら……オレが入りこむスキはありませんか?……好きですオレマジであなたのこと好きです」  まっ赤になっていた。  あんまりにもかわいくって、あたしはつい笑ってしまった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加