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「あーだいじょぶっすよ、番頭は朝から競馬だし、おねえさまがたやほかのこぞうは一人も出てきてないし、工事のやつらはさっき飯行ったし、それに電気系統の工事だから、例のシステムも止まってるし」
「システム?」
にかっと、とがった歯が光った。
「カメラとかそういうの。番頭がいつもモニタ見ながらシコってる」
あ、って思った。
いつかのトイレットペーパーの文字を思い出した。
ここは かんし
されている
ばかなあたしは、やっとわかった。
鴎さんはすぐにわかったんだ。
このへやのどっかにカメラがかくしてある。てことは、あたしが仕事でしてることぜんぶ見られてたってことで……ぼんやり考えてたら、はあはあしめった息が顔にかかった。
「つまり、今ここにいるのは、オレと静江さん、二人きり……」
つるぎ君の顔がずいぶん近い。
「あ」
ぎゅっ、とだきしめられた。
「ちょっとちょと、待って」
うでの力がゆるまったので、あたしはさっさと服をぬごうとした。らんぼうにされて、シャツがのびたりやぶれたりするのがいやだからだ。
でも、つるぎ君はぱっとじゅうたんにはいつくばって、
「すいまっせんしたっ、静江さんがあんまりいい匂いなんで、錯乱しましたっ」
頭を下げた。
頭を上げたら、
「けど、静江さん、これだけ教えてください」
ひどくしんけんな顔だ。
「静江さんはあのおまわりのこと、マジに好きなんすか?」
「え?」
あたしはシャツをまくろうとした手をとめた。
「丈一さん、のこと?」
つるぎ君はうなずいた。あたしが返事する前に早口でいった。
「そうです樋口丈一。あいつが何やってるのか、オレいろいろ調べました。あいつはひどいやつです。警察の力をいいように使って金いっぱいとって、女の子をいっぱい売り飛ばして……あ、でも、静江さんが聞きたくないって言うなら言いませんけど。なんつうか、その、静江さんが好きなら、オレは別にいいんす。あいつがあなたにどんなにひどいことをしようと、外でどんなことしてようと、静江さんがあいつのこと好きで今が幸せってんならいいんす、オレも幸せっす。けど、そうじゃないなら……そうじゃないなら……オレが入りこむスキはありませんか?……好きですオレマジであなたのこと好きです」
まっ赤になっていた。
あんまりにもかわいくって、あたしはつい笑ってしまった。
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