第1章

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 つるぎ君が横を向いたので、あたしはあわてた。  「ごめんごめん、ありがとうつるぎ君、あたし、すごくうれしい。あたしみたいなばかなインバイのこと好きっていってくれて」  つるぎ君はおこった顔をまっすぐ向けた。  「静江さんのことひどく言ったら、オレ怒るっすよ、許さないっすよ、戦いますよ、たとえそれが静江さん相手でも。オレ、想定外に強いっすよ」  「え、戦うの、あたしと?」  あたしはびっくりした。  つるぎ君は何度かまばたきをして、  「あれ、変すか?」  って、聞いた。  あたしはうでを組んで、頭をひねった。  「うーん、ちょっとむずかしい、かも」  あたしたちは顔を見合わせた。それから同時に笑いだした。  笑い終わったら、やっぱりなんだかさみしい。あたしはうつむいて、じゅうたんを指でいじった。  「つるぎ君は強いだろうけど、丈一さんもすごく強いよ。だから、ケンカしてほしくないな。ケガするかもしれないでしょ、それはダメだよ、すごくいたいよ」  つるぎ君はぐっと体を前にした。いきおいでじゅうたんに手をついた。  「オレ負けないっすよ。あんなポリになんか一切負けねえし。静江さんが殺せと言えば殺すし、けど……静江さんが好きなら手を出さない。だから聞いてるんす。好きなんすか? ねえ、あんな男好きなんすか?」  あたしの体はさっきからびくびくしていた。  どう答えたらいいのか、ぜんぜんわかんなかったからだ。  ちょっと前なら、丈一さんがよろこぶことをなんでもしてあげようって心に決めていた。そうするのがうれしかった。  だけど、あの日から、あの文字が、あたしの頭の中にやきついた。  そのせいでおかしなことを考えるようになっていた。 ここは かんし  されている       きみを にがして   こいびとへ       さいごのことばが、特別太い字で頭の中にうかんだ。  「こいびと」ってだれのことなんだろう。そのことばっかがぐるぐるまわった。鴎さんは人の気持ちがわかるっていってた。なら、あたしがほんとに好……(あたしはここのところでいつも頭をぶんぶんふった)ひみつにしていることを見ぬいて、「こいびと」って書いたのかな。だったら「こいびとへ」っていうのは……(ぶんぶん)でも、だめ、それはぜったいにだめなことだ。ゆるされないことだ(ぶんぶんぶん)。  「ちゃんと答えてやれよ、静江」
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