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「納得出来ないわ!」
急に部屋に入ってきたかと思うと、弥勒はそう叫んだ。おかげで侑平は、どこまで本を読んでいたか見失う。まったく、自室では呑気に本すら読めないらしい。
「な、何がですか?」
で、無視すると報復される危険もあるため、侑平はすぐに訊ねる。
「あの女よ。本当に奥さんやってたのかしら」
ずいっと、弥勒は侑平に顔を寄せて言う。ご近所の噂好きの奥様のようだ。
「あー。琴の君ですか?」
女に該当するのは、この寺では弥勒以外に彼女しかいない。
かつて礼門が家に置いたという、琴の付喪神だ。その彼女は、礼門の正妻だったという。
「そう。納得出来ないのよね。あまりに出来すぎていて。助けて嫁にするって、ただのパターンでしょ。言い訳に使ってただけだわ」
「ーーまぁ、異類婚ですしね」
言い訳云々は一先ず横に置き、結婚していたという流れは、妖怪たちの流儀に合わせただけという可能性はある。
昔話にあるように、助けたモノが恩を返すために嫁ぐというのは、流れとしてあるものだ。そして家を繁栄させる。
「そのとおり。だから、何もなかった。ノーカウントよ」
拳を握り締めて言い切る弥勒は、礼門を本当に慕っているのだろうか。
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