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青いバラは、軒先ではなくショーケースの隅っこに置いてある、最近入荷したばかりの花だ。私もこの仕事を始めるまで、青色のバラがあるなんて知らなかった。赤やピンク、黄色のバラに比べると、見慣れていないせいか少し色合いが毒々しく見える。珍しい品種というだけあって、値段も少し高い。なので、全然売れなかった。買っていく人は一人しかいないし、うちの店もその一人の男性のために入荷したと言っても過言ではない。
その人は、ある夏の終わりに、しょぼくれた表情でやってきた。夕方にさしかかり、お見舞いのお客さんがどんどん減って……売り上げが落ちていく時間帯でもある。
「あの……」
「はい、なんですか?」
「こちらのお店……青いバラって、置いてますか?」
「あ、青いバラですか?」
私はお店を見渡す、そう広くはない店内……そんな色の花を置いていないことは一目瞭然だった。
「申し訳ございません、うちでは取り扱っていなくて……」
「そうですか」
そのお客さんは、大きくため息をついて……その場にしゃがみ込んでしまった。まさに、疲労困憊といった様子で。
「あの、大丈夫ですか?! どうぞ、これ、座ってください!」
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