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「せっかくだから、これでも読んで少しは花の事に興味持ってみろ」
それは、花言葉の本だった。あちこち擦り切れていて、表紙は黄ばんでいる……何だか少し触るのが嫌になる。
「なんだ、その顔は。お父さんはこの本で勉強したんだぞ」
「うぇー……」
丁重に受け取ると、お父さんは満足げに笑った。パラパラとめくってみたが、青いバラについてはどこにも書かれていなかった。
「お父さん、これ、青いバラは?」
「青いバラ? ああ、最近作られた品種か……古い本だから載ってないかもな」
「そっか。あの、お父さん」
「なんだ?」
「ひとつ、お願いがあるんだけど……」
***
「あ、いらっしゃいま……大丈夫ですか?」
あれからしばらく経ったある日、またあのお客さんがやってきた。初めて来たときよりも、しおれ方がひどくなっている。慌てて丸椅子を持ってきて、腕を引いて彼を座らせる。
「あ、はい……すいません。お気を煩わせて」
「いえ。お水、飲みますか?」
「いえ、大丈夫です。あの、今日もバラを……」
「そうだ! 見てくださいよ!」
ショーウィンドウを指さすと、彼は顔をあげる。指の先には……入荷したばかりの青いバラがある。
「うわ、青いバラだ! ……もしかして、わざわざ入荷してくださったんですか?」
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