青いバラ → 赤いバラ

6/11
前へ
/11ページ
次へ
「いや、まあ……」 「すごい、本当にあるんだ」  お客さんは立ち上がり、ショーウィンドウに近づく。そして、四方八方から舐めるようにそのバラを見つめていた。 「それで、今日は何本にします? 三本? 十一本……あ、でもさすがにぃ~百八本は事前にご予約いただいた方がいいかな?」 「でも……」 「ん?」  彼の顔はすぐさま曇ってしまう。そして苦虫をつぶしたような顔をしてから、ぽつりと口を開いた。 「会ってもらえなかったんです、彼女に」 「え? せ、折角お見舞いに行ったのに?!」 「はい……」 「ひどくないですか、それって! お客さんだって一生懸命だったのに」  見たことも会ったこともない、このお客さんの口からしか聞いたことのない『彼女』に憤りを覚えて、思わず荒々しい声が上がる。言い終えてから、あまりの差し出がましい行為にハッと我に返るが、お客さんはまた優しく笑うだけだった。その寛容な態度に、自分と言う人間の器の小ささを感じて、いたたまれないほど恥ずかしくなっていく。 「彼女、別れてくれって言うんです」 「……どうして、またそんな事を」     
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加