第1章 未知との遭遇

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 あれをしなきゃ、これをしなきゃ、と思いつくたびに、当たり前のことながら僕は決断と行動を迫られる。メシを買いに行かなくちゃ、とか、あの作家の本を読んでみよう、という簡単なことは即行動に移せるとして、もっと大事なことが先延ばしになっているのだ。  この盆休みに実家へ顔を出せ、と親父に言われていることもその一つだ。将来についての展望を示せ、とまた小言を言われるに違いない。  もう来週は盆休みの週なので今夜にでも電話をして、忙しくて帰れない、と伝えておくべきなのだが、うまい言い訳をしなくちゃな、とか考えると、気が重くなる。イヤなことはつい後回わしになってしまうものだ。  あのドラマの最終巻をいつ見るかという問題は、先延ばしにするほど大事なことなのだろうか。  岡本さんにまた、あはは、と笑われてしまい、彼女と僕を繋ぐ縁など実は存在しないという現実を思い知らされたとして、それが僕にとってそれほど重大事だろうか。これについてはもっと考えてみないといけない。  そう思って眉をしかめたところ、ドアのチャイムが鳴った。ピザの出前でも頼まない限り、うちのドアのチャイムを鳴らす者など誰もいないはずだ。  不思議に思ってドアを開けると、そこにあの女の子が立っていた。 (第2章に続く)
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