第2章

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 キッチンからグラスと皿を持って現われた彼女は、リビングの大きなコーヒー・テーブルの上に宴会の準備を始めた。と言っても、僕が買ったビールをグラスに注ぎ、僕が買ったつまみを皿に出すだけだったけれど。  男同士でテレビを見る時には缶から直接ビールを飲み袋から直に煎餅をつまむわけだから、グラスと皿を一応用意する一手間というやつに、内心ちょっと感心しなかったわけでもない。  奈々子は仕度を終えると黒い革張りの立派なソファーにテレビを正面にして座り、隣の席を手で軽く叩いて横に座れと僕に合図した。  はいそうですか、と大人しく従うのも芸がないように思えたけれど、せっかく友達モードになっているらしい彼女の機嫌を損ねるのも面倒なので、黙って彼女の隣に座った。  このテレビドラマの最終回をそれほど見たかったわけではない。連ドラというやつは、次はどうなるのだろう、と視聴者の関心を惹きつけるように多少無理な展開をするものだから、紆余曲折があって二人がうまく結ばれましたなんていう筋書きは見え透いている。  奈々子がリモコンでプレイを押してドラマが始まった。それにしても、彼女はこの前このDVDを借りたはずじゃないか。僕は先ほどからの疑問を素直に口にした。 「これ、君はこの前もう見たんじゃなかったっけ?」 「見てないよ。最後の場面だけ見たら二人がうまく行く話らしかったから、見るのやめたの。始めから順番に見なくちゃ、と思って。連ドラってそういうものでしょう?」  奈々子はこちらを見ずに、まるで映画館の中でひそひそ話をするみたいな小声で言った。鼻が小さくて唇がふっくらとしており、彼女の顔はやっぱり可愛い部類に入ると思う。そんなふうに観察していたら、彼女にきつい顔を向けられた。 「ちゃんと真面目に見てよね」  はい、はい。僕はビールをごくりと飲み、観念してテレビのスクリーンを眺めた。嫌いなストーリーじゃない。主演女優は僕の好きなタイプだし、男達も悪くない。悪くないどころか格好いいやつらだ。  僕はいつしか隣に奈々子が座っていることを忘れ、ビールを飲み、煎餅をかじることも忘れて、けっこうドラマの世界に浸っていた。青春、している気分になった。  主人公の男と女が見つめ合って、ちょっと心をくすぐるテーマソングが流れてドラマは終わった。
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