第3章 猫を抱く女

7/11
前へ
/53ページ
次へ
 ドレス、と呼んでいいのかもしれないけれど、白や淡いピンクやモスグリーンやゴールドや、それに例の宇宙人みたいなシルバーのやつも。透けるようなシフォンや、スパンコールとかビーズが付いてきらきらしているやつもある。  足元には、ストラップだけみたいなヒールの恐ろしく高いサンダルがたくさん並び、まるで女優かバレリーナの衣装みたいだ。そして、ついその隣のクローゼットにも手を伸ばした。  そこは半分が引き出しになっており、残りの部分に服がぶら下っている。いや、服ではなくて、きっと部屋着かスリップだ。ふんだんにレースを使った綺麗なスリップがたくさん掛けられていて、僕は恥ずかしくなり思わず眼を逸らした。  でも、好奇心に負けてつい引き出しの一つに手を伸ばすと、そこには何色ものレースのパンティーらしきものがきちんと折り畳まれていっぱい仕舞ってあった。  慌てて引き出しを閉めクローゼットを閉じた。ミミを抱きかかえてキッチンに戻りながら、これはどういうことかな、と考える。ミミを床に下ろすと、目覚めたらしい彼女は早速牛乳を飲みはじめた。  あのスリップを着てベッドの背に寄りかかり膝にのせた猫の毛を撫でる奈々子の姿が瞼に浮かぶ。いや、彼女が愛しそうに指を絡めているのはレースの中に潜り込んでいる男の髪の毛だ。  その映像はあまり好ましいものではなく、下半身が妬けるように熱くなり、僕は急いで彼女の部屋を飛び出した。  なんであんな派手な衣装ばかりクローゼットに並べているんだ。レンタル・ショップに向かいながら、僕の頭はその疑問でいっぱいになった。  彼女はやっぱりバーか何かに勤めているのだろうか。でも、どうして若い子があんなにたくさん高価そうなレースのスリップを持っているのか。どう考えたって答えは一つだった。男に見せるためだ。男を誘い、その気にさせるためだ。  いや、単に下着フェチで集めて見て楽しんでいるだけかもしれない。しかしそんな理由では、どうにも自分を納得させられなかった。  その晩、僕は夢を見た。奈々子があのレースの下着だけを身に着けて僕をベッドに手招きする夢だ。彼女はベッドの背に寄りかかって座るとにんまりと笑い、膝を立てるとあの長い脚を焦らすようにゆっくりと開いてその奥に潜む茂みを僕に見せつける。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加