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僕は欲情する。自分でも抑え切れないぐらい。彼女に飛びかかって彼女を激しくベッドに押し倒したくて頭が真っ白になる。そこで僕は眼が醒めた。
「友情なんてクソ食らえ、だ」
僕は自分の欲望を処理しながら吐き捨てるように声に出した。
終わってしまうと、惨めさだけが後に残った。いったい、奈々子に惚れているのだろうか。それとも、単に欲求不満のところに女の下着を見せつけられ、煽られただけだろうか。
前の彼女と別れてから一年ほどになる。若い男が女も抱かずに過ごしているから、それで頭がおかしくなったのかもしれない。
解決策は二つしかないように思えた。奈々子を抱くか、それとも他の女を抱くか、だ。だけど、好きでもない女はやっぱり抱く気になれないじゃないか。
再び奈々子の顔を思い浮かべる。僕は彼女が好きなんだろうか。そして、慌ててその質問を胸に仕舞い込んだ。そんなことを自分に尋ねたりしたら、彼女のことが好きになってしまいそうな気がした。
レンタル・ショップに奈々子が怒鳴りこんで来たのは、翌日のお昼少し前だった。
CDの棚を整理しながらその前でうずくまっていた僕の耳に、彼女の声が飛んで来た。
「いったい、何をしたの?」
剣幕に驚いて僕が見上げると、奈々子が目尻を吊り上げ怖い顔をして突っ立っていた。一瞬、うろたえる。もしかして、ベッドルームのクローゼットを閉め忘れただろうか。
「何、って?」
彼女の詰問に対する弁明を探しあぐねて、時間を稼ぐ為に僕はとぼけた。
「ミミちゃんよ。ミミが起きないの!」
奈々子の眼に信じられないほどいっぱい涙が溢れた。彼女はもう怒ってはいなくて、泣き叫びそうなぐらいに悲痛な表情を浮かべている。
「落ち着いて。ね、今一緒に見に行くからさ」
彼女をなだめ、昼休みには少し早かったけれど斉藤さんに断りを入れて早めに店を出た。奈々子に店で修羅場を演じられるのは具合が悪かったし、それに、取り乱している彼女のことが心配だった。
小走りにマンションに戻りながらも、彼女は小さな子供みたいにめそめそしている。大丈夫だから、と言いながら、僕は安心させようと彼女の手を握った。振り放されるかなと危惧したけれど、彼女は僕の手をしっかり握ると相変わらずぼろぼろと涙を零していた。
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