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まったく子供みたいだ。そしてそんな彼女のことがとても切なく感じられ、彼女にとってそんなに大事なミミのことが、本気で心配になった。
奈々子のマンションに入ると、リビングに旅行カバンが置きっ放しになっていた。そういえば、彼女はちゃんとした白いスーツなんか着ているから、きっと旅から戻ったその足で僕を訪ねて来たに違いない。
僕はベッドルームに入って眠っているミミを眺めた。白い毛に触れると、ミミは弱々しい声でみゃおと鳴いた。猫が生きていることを知ってほっとする。昨晩もミミは晩飯の時にベッドルームから飛び出して来なかったし、病気なのかもしれない。
思いついて、僕は携帯で動物病院を検索した。一番近い病院は、と。
「何しているの?」
携帯と僕を眺めながら、奈々子が不安そうな声を出した。
「病院さ。犬猫病院」
病院は駅の反対側だ。電話を入れてみると、救急の外来は昼休みも受け付けてくれるらしい。
「さ、行こう」
ミミを抱きかかえて奈々子を促すと、彼女は大人しくついて来た。ミミも抱かれるままに腕の中で大人し、お腹がごろごろと鳴っていた。変なものでも食べたのだろうか。もしそうだとしたら、僕の責任だ。
奈々子がすり寄って来て、僕の腕を取った。彼女は時おりミミを撫でながら、黙って横を歩いている。
「大丈夫だよ」
僕が努めて朗らかな声を出すと、奈々子は少し眉をしかめたまま口許に戸惑ったみたいな笑みを浮かべた。あの顔だ。彼女をとても愛しく感じさせてしまうあの顔だ。
視線を避けて逃げる代わりに、ぼくは彼女の瞳を見つめた。僕だって君の猫のことをとても心配しているし、きっとミミは大丈夫さ。僕は眼でそう語り、彼女はわかったと言うみたいに眼を伏せて僕の腕をぎゅっと握った。
犬猫病院の先生は若い女医さんで、待合室にいた僕達が呼ばれてミミを抱えて入っていくと、彼女は一瞬怪訝な表情を浮かべた。ショップのスモックを羽織った男と上質のスーツを着こなした女なんて妙なカップルに見えたに違いない。
ミミが床から起き上がれないと奈々子が病状を説明すると、先生はミミを受け取って白い大きな寝台の上に寝かせた。
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