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アイスコーヒーをストローでかき混ぜながら由香里が呟き、どうもその青春とやらには僕が組み込まれているらしいことが何となくわかった。でなきゃ昔振った男をわざわざ訪ねて来たりはしないものな、と変に納得している。
それに、そんなふうに言われて心が動かないと言ったらうそになる。別に嫌いになって別れたわけじゃないし、大喧嘩をしたわけでもない。あの時は、彼女を追い駆けるほどの情熱がなかっただけだ。
僕は眼の前に座っている由香里を眺めて自問していた。もう一度この女を抱けるか、と。そして、答えは呆気ないほど簡単だった。無論、抱ける。抱きたい。その後のことは深く考えたくないけれど、僕は彼女を抱くためにも、ヨリを戻したくなっていた。
「今度さ、晩飯でも食おうか。金曜日、とかさ」
僕が提案すると、由香里はOKというふうに微笑した。猫を抱いた奈々子の面影がちらりと脳裏を掠めたけれど、僕はそれを意識して追いやった。簡単な選択だ。僕のことを思い悩ます女より、安らぎを与えてくれる女がいいに決まっている。
男というのはひょっとしてとても単純な動物ではないだろうか。由香里に腕枕をしてやりながら、僕は達観していた。
女を抱いて自分の欲求を充たし、それで身体がすきっとした。難しいことは考えずに、ひたすら女を抱いて射精する。気持ち良くなるためだけに。そして、きっと彼女だって気持ちいいに決まっている。だからこれは相互扶助みたいな関係だ。
由香里の寝顔を眺める。魅力的な女には違いない。身体だっていい。
でもどこかで何か違うとも感じている。もっとあるんじゃないか、って。生理的な快楽という次元を超えて、もっと眩く何かがあっていいんじゃないだろうか、と。
昔初めて彼女を抱いた時には、違う高まりがあった。二人ともセックスに関しては今よりへただったけれど、もっとすごい何かを感じていた。
ひょっとして、それは心が身体にくっついていた、ということだろうか。感情が性器にくっついていたからだろうか。考えても答えは出そうになく、僕は肉体の疲れに似た重い気怠るさに瞼を閉じた。
生涯でただ一人の大事な人。男がそう告白する映画があった。嘘つけ、と言いたくなる。あのハンサムな男なんかきっと影でたくさんやっているに違いない。
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