第4章 心はどうした?

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 二人でしばらく黙って歩いた。僕の頭の中には彼女に聞きたいことが山のように積み上がっていて、どこから手を付けたらよいものかわからなかった。  奈々子が先に口を開いた。 「敦君、知っていたんでしょう?」 「知っていたって、何を?」  自分の声がいやに棘々しく響いた。 「全部、よ。私がどういうお勤めをしているか、ってこと。私の部屋、覗いたんでしょう?」  どう答えたら正解なのかわからなくて、僕は口をつぐんだ。 「あそこは会員制の高級クラブなの。私はあそこの客の夜のお相手をするわけ」 「もういいよ。そんなこと、別に聞きたくないからさ」  僕は声を荒げて奈々子の声をさえぎった。彼女の口から事実を打ち明けられて、実は狼狽していた。そんなこともあるかもしれないと疑ってはいたけれど、本人からはっきり聞かされてみると、やはりショックだったからだ。  足を速めて大通りに出るまで僕は口を開かなかったし、彼女も何も喋らなかった。タクシーを拾って彼女を乗せ、自分も一緒に乗り込んだ。 「敦君が考えていること、当ててあげようか」  奈々子が呟いたので、僕は腕を組んで前方を向いたまま答えた。 「何も考えてなんかいないさ」 「ウソ。敦君はきっと私のことを汚い女だって思っているんだ」 「・・そんなことないさ」 「それだったら、どうしてさっきからそっぽ向いているの? どうして怒っているのよ」  彼女が僕の腕を強くつかんだので、僕は彼女を見た。そして、彼女が眼に涙を溜めていることに気づいた。優しい言葉でもかけるべきなのだろうけれど、僕は先ほどから胸に溜まりつつあった嫌悪感を吐き出した。 「どうしてそんな仕事するんだよ。汚いって自分で思うぐらいならやめちまえよ」  僕の剣幕に驚いたのか、彼女はしばらく無言だった。それから、指で涙を拭って口許にぎこちない笑いを浮かべると、ぼそぼそと喋りはじめた。 「私ね、すごくラッキーだったの。東京に出て来てファミレスでバイトしていたら、キャンペンガールにスカウトされたんだ。で、いろんなパーティーに呼ばれていろんな人に出逢った。 クラブの人にスカウトされて、香港の金持ちと知り合ったわ。彼はIT長者で、奥さんに見つかって揉めたらしいけれど、手切れ金にマンションを買ってくれた。
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