第1章 未知との遭遇

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 日曜日の晩は僕の出勤日だった。客に映画の検索を頼まれて題名をコンピューターに入力した。僕とさほど年齢が違わない若い男なのに、ずいぶんクラシックな映画を見たがるものだ。  店のDVDの並べ方を熟知していないと見つけにくいと思われ、案内を買って出た。DVDは二十ほどの棚に並べてある。邦画の「ドラマ」の棚に客を案内してからカウンターに戻ろうとして、ふとテレビドラマの棚の前にショートパンツから長い脚を出している女の子を見かけた。  間違いない。あの公園にいた幽霊の子だ。  今日はTシャツにジーンズのショートパンツといういかにも普通の女の子みたいな格好をしている。こうして近くで観察してみると、女の子と言ったってたぶん二十歳は過ぎていると思う。僕より幾つか若いか、ひょっとして同じような歳だろうか。  視線に気づいたのか、しかめ面で棚をにらんでいた彼女は振り向いて、今度は僕をにらんだ。 「これ、最終回がないってどういうこと?」  店内の明るい照明の下で見ても、やっぱり彼女の瞳はちょっと猫に似ている。大きくて切れ長で目尻が少し釣り上がっている。そして、彼女がとても綺麗な人だという新たな発見に、僕は一瞬ひるんだ。 「ねえ、どうなっているの?」  詰問調の彼女の声に我に返り、何を探しているのか丁重に尋ねてみた。彼女はテレビドラマのDVDを指し示すと、最終回の入っている第五巻が貸し出されていると文句を言った。 「いつ返却予定かお調べしましょうか?」  僕が親切に申し出ると、彼女はしばらく考え込んでいるようだった。 「これ、どういう終わり方をするドラマなの?」  そんなことを聞かれても、僕はテレビなんて滅多に見ないから即座に答えることができない。DVD第五巻のケースを見て最終回のあらすじを読んでみた。無論、見る人の楽しみを削がないようにと配慮されているから、結末なんてはっきり書いていない。 「そうですね。ここに書かれていますのでお読みになって下さい」  彼女は僕の手からDVDのケースを奪うようにして受け取ると、しばらく眼を通していた。まるで自分の運勢を占うみたいな真剣な顔だ。 「これじゃあ、ハッピーエンドかどうか、わからないじゃない」  彼女は形の良い唇を突き出して、不服そうにDVDのケースを僕に突き返した。しかし、単なる店員の僕にそんな文句を言われたって困る。
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