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「連ドラって、ハッピーエンドが多いんじゃないですか?」
言うことに事欠いて何気なくそう口にすると、彼女は不機嫌な顔を振り向けた。
「もしそうでなかったら、どうしてくれるの? 十回分、十時間を無駄に費やして暗い気分に陥るなんて、ごめんだわ」
と言うことは、彼女はまだこのドラマを見はじめていないのだろうか。
「あの・・、もしかして最終回から見るんですか?」
余計な質問だったらしい。彼女は眉をしかめると、当たり前なことを聞かないで、という口調で僕を諭した。
「最終回から見ないでどうするの? 二人がうまく行く話だったら、前の方も見る。そうでなかったら、不幸になる二人の話に延々と付き合わせられるなんて、真っ平ご免」
「はあ・・」
そういう人もいるのかと半ば呆気に取られていると、彼女はすたすたと出口に向かって歩き去った。
モデルみたいに長くて白い脚だ。でも不健康に細いというわけでもなく、太腿とかふくらはぎにはちゃんと肉がついていて、足首だけがほっそりと引き締まっていた。ショートパンツなんてやたらと短くて、お尻がはみ出そうな恰好だ。
彼女の姿が見えなくなってから、最終回が返却されたら連絡します、と電話番号ぐらい聞いておくべきだった、と後悔した。ハッピーエンドで終わるストーリーだったら借りてもらえるわけだし、他のテレビドラマにだって興味を持ってくれるかもしれない。
顧客のニーズに答えることこそが我々のサービスである、と語った店長の言葉を思い出した。本を最後の頁から読むという人の話を聞いたことがあるから、連ドラの最後から見たいという客がいてもおかしくない。普通じゃないけれど。
でも実のところは、客に喜んでもらおう、とか、店の営業成績を上げよう、なんて殊勝に考えたわけではなく、単にあの子にもう一度逢ってみたかっただけだ。
もう一度見てみたい、と言った方が当たっているかもしれない。怖いもの見たさ、という気持ちに似ている。女の子の恐ろしく不機嫌な顔が念頭から離れず、本当に綺麗な子だったのか再確認してみたくなった。人には思い込みというものがあるからだ。
しかし、好きな子が美しく見えるということはありえるとして、イヤなやつが綺麗に見えたというのは、いったいどういうことだろう。
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