第1章 未知との遭遇

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 少なくとも、これまでに彼女を偶然二回も見かけたということは、僕と彼女には巡り逢う必然性がまとわりついているとも考えられる。  それに彼女が探していたドラマを徹夜までして見たのだから、この努力に対して、偶然、のおまけがついてきてくれるような気がしないでもない。この考えが気に入って、僕は思わず口笛を吹いた。  パソコンのスクリーンをにらんだ。今日は朝からずっとワープロと対峙して「小説」なるものを書いていたのだけれど、読み直してみたら書いたものがばからしく思えてきた。  これでは若い男の戯言に過ぎない。部屋のちまちました情景やら、ありきたりな会話、思いつくままみたいな心情描写。リアリズムを追及すればするほど、くだらない話になってくる。  そういうのが文学なるものだとしても、これではまるで言葉を使ってのマスタベーションだ。自分だけ気持ちいい、みたいなやつだ。  僕は溜息をついてぼんやりと窓の外を眺めた。五階の部屋の窓からは住宅の屋根や他のマンション、それにあの狭い区立公園の緑を眺めることができる。そろそろ黄昏時で、公園の向こうの空は少し茜色に焼けている。  醜悪な建物が立ち並んでいる東京でさえ、空というものは案外美しく見えるものだ。夕闇が迫ると猥雑なビルでさえ神秘的な黒い影に変貌し、鮮やかな光彩の夕焼けを惹き立てる。  再び公園を見下ろして、あれ以来偶然に見放されている、という現実に溜息をついた。彼女はレンタル・ショップに姿を現わさなかったし、公園で見かけることもなかった。  彼女が借りたいと言っていたドラマの第五巻はすでに店に返却されているが、僕はまだ借りて見る気が起こらない。このドラマの最終回を見てしまったら、彼女との遭遇は幻に終わってしまうような気が、なぜかしている。  理由などない。これが第六感なのか単に願を賭けているだけなのか、自分でもわからない。  世の中にはそういう理性では説明のつかない事柄も多いのではないだろうか。たぶん岡本さんだったら納得できる説明を用意してくれるかもしれないけれど、僕は彼に尋ねることを先延ばしにしている。  そして、先延ばしにしていることが増えてくるにつれ、僕の心は段々と重くなってくる。
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