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頭の上で、だれかがだれかをなぐる固い音が何度もした。「ぐえっ」とか「おっぷ」とか、苦しそうな声もした。
でも、あたしははいはいをやめなかった。
とうとうのばした手が、ひんやりとびらにさわった。
おなかにぜんぶの力をこめて、息をとめてふんばって、あたしはとびらにくっついてよろよろ立ち上がった。
レバーに手がとどいた。そんなに力を入れないでもレバーはかたん、とまわって、とびらは動きかけた。そのとき、
どごん。
世界がばく発した、ってあたしは思った。
それぐらいの音とまっ白な光とするどい風だった。さっき鴎さんがさせたのとぜんぜんちがう。こんなのはじめてだ。
あたしは目をぎゅっとつぶって、とびらにしがみついて動けなかった。
目をあけたとき、あたりはまたまっ暗で、カレーのおなべをひどくこがしたみたいなにおいでいっぱいだった。さいしょは耳がつまってなにも聞こえなかったけど、だんだん、あたしの息の音から聞こえてきて、世界はばく発してないのがわかった。
少しずつ体が動かせそうだ。
あたしは手をのばして、もう一度とびらのレバーをまわそうとした。
そのとき、あつくて固いものがのどにささって、悲鳴を上げそうになった。けど声は出なかった。きっとのどに穴があいたって思った。
大きい手が、がっちりかたをつかんだ。はあはあする息が、耳にかかった。
「でも、俺は……」
声はふるえていた。
あたしは暗い中に目をこらした。
かすかに光ったのは、汗のせいかもしれない。かたをつかんだまま、丈一さんは鼻をすすった。まいごの小さい子どもみたいだった。
この人を泣かしたのはあたしだって思った。
あたしは手をのばして、丈一さんの顔をふき、かみの毛をくしゃくしゃくしゃってなでた。
「丈一さん、だいじょうぶ、こわがらないでだいじょうぶだよ」
それからあたしは目をとじて、体の力をぬいた。こわい気持ちはすっかり消えた。もうなにが来たって平気だ。
丈一さんはまた鼻をすすって、はあはあ口で息をした。
「俺は……好きだぜ」
ゆっくり白い光がはじけた。
どごん。
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