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【1】裏の世界/1.灰色の世界
五月のゴールデンウィークを過ぎたある日のこと。同じクラスになって一年ちょっと、芳野美桜が突然、話しかけてきた。
「見つけた」
放課後の教室、補習が終わって忘れ物を取りに来た俺は芳野に呼び止められた。教室に二人きり。否が応でも高鳴る胸を押さえつつ、
「何が、だよ」
独り言だったかもしれない。だが、俺は反射的に言葉を返した。
無意識のうちに、俺は何かを期待していたのかもしれない。
これから愛を告白されるのか。もしくは自分との接点を見いだして、友人としてでもいい、付き合いを始めようと言われるのかも。
眩しいほどの夕日が差し込んで、芳野の顔は霞んで見えた。
普段気にしたことはなかったのだが、よく見ればかなりの美人なのだ。端整すぎる顔立ちを隠すようにかけた眼鏡のレンズが、夕日を反射して鈍く光っていた。
「あなたのことを、ずっと、探していた」
彼女は重ねて言った。
「へ、変なこと言うなよ、芳野さん。俺たち、ずっと同じクラスだったじゃないか。何をどう探してたんだよ」
口をひん曲げ、俺は苦笑いした。
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