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芳野のことをよそよそしく“芳野さん”と呼んでいるのには訳がある。彼女が今まで、誰かに話しかけた場面など見たことがなかったからだ。いつも一人、教室の中で浮いていた。優等生で、綺麗で、まるで作り物のような彼女は、同性からも距離を置かれるような存在だった。
そんな彼女が俺を『探していた』と言う。それが、どれだけ俺を興奮させたか。
一方の俺と言えば、……確かに目立たない。
高校に入ってこの方、友と呼べる存在が全くいない。どちらかと言えば誰かとつるんでいるよりも一人でいるのが好きだし、誰にも干渉されずゆっくり自分のペースで動くのが気楽でいい。常に一人でいても、寂しいとは思わない。どうやらこういう状況を“ぼっち”とか言うらしいが、それを解消しようとも思わなかった。
ただ、自分でそう思っているのと他人から指摘されるのでは、まるで意味が変わってくる。
俺がそうやって困惑していると、彼女はフンと鼻で笑って口角を上げた。
「違う、あなたは何か勘違いをしている」
芳野は俺のそばまで近づいてきて、窓際の机の上にドカッと腰を下ろした。足組みすると、スカートのヒダから柔らかい太ももがのぞく。それが何ともエロティックに思え、俺は思わず、ゴクリと唾を飲み込んだ。
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