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「世界には、“表”と“裏”がある。この世界の幸福は裏の世界“レグルノーラ”にも幸福をもたらすけれど、不幸は更なる不幸を与えてしまう。プラスとマイナス、表と裏、白と黒、光と影。それぞれがそれぞれに影響を及ぼし、うまくバランスを保ちながら成り立っている」
芳野は淡々と、与えられたセリフをそらんじているようにも見えた。それほど、彼女の言葉は滑稽で、理解し難いものだった。
――コイツ、病んでるのか。
目立ちはしないが、かなりの美少女。本来ならばクラス中、いや、学校中の注目の的にさえなりそうな彼女が、俺と同じように“ぼっち”状態な理由。彼女の思考は明らかに偏っていた。
前述の通り、彼女は自分から誰かに話しかけたりはしない。実に受動的。自分のことを話したり、誰かと笑い合ったりすることもない。
そう考えれば少しは親近感も湧くが――、この風体でこの趣向とは、勿体ないと言わざるを得ないだろう。
俺は、彼女が至極真面目な表情で訴えているにも関わらず、そんなことを考え心の中で嘲笑っていた。
すると、
「今、思っていたのでしょう、私のことを、“滑稽だ”と」
彼女は、俺の心を読んだかのようなタイミングで目を細めた。
俺は思わず後ずさりする。上履きのかかとが机の脚に当たり、ギィと音を立てて俺を追い詰めた。またゴクリと唾を飲み込む。
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