【1】裏の世界/1.灰色の世界

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「そりゃ、まぁ……」  のっそりと立ち上がり、尻の汚れを払いながら、俺はとりあえずの返事をした。  馬鹿馬鹿しい。夢ならば覚めてしまえば証拠もクソもあるまい。  ところが芳野は、自信たっぷりに上から目線で笑っている。俺より15センチは低かろうに、圧倒されそうだ。 「もし“夢”じゃなかったら、私とあなたは“干渉者仲間”ってことになる。“干渉者”は互いに名前で呼び合う。私はあなたを“凌”と呼ぶ。あなたも私を“美桜”と呼んで。いい?」 「み……み、お?」 「そう、名前を呼ぶことで、互いの存在をより近くに感じることができるようになる。幸い、私もあなたも、あちらの世界では孤独な存在。下の名前で呼び合う仲間など、いないのでしょう。だとしたら、なおさら都合がいい。もちろん、普段の生活では“来澄くん”“芳野さん”で構わない。“干渉者”として接するときは必ず、下の名前で呼ぶこと。わかった?」  ここで『わかった』以外の答えが出せるのか。俺はただただ圧倒されて、無言でうなずいた。  芳野の長い髪と制服のスカートが、ビル風に揺れてなびく。  ゴロゴロと空で雷が鳴り始め、これから天気が荒れますよと伝えてくる。 「腕を出して」     
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