第1章

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 譲次さんはぶるぶるっと体全体をふるわせ、あたしもぼうしを耳の下まで下げた。吐いた息は大きい白いかたまりになって上って、オレンジ色のがい灯に照らされた。  すぐそばに大きいえきが見えて、歩いてるのはコートをきたサラリーマンっぽいかっこうの人が多かった。  あたしの目の前を親子がとおった。けどよく見たら、おばあさんとまごぐらいだ。おばあさんはふっさふさの黒い毛皮のコートをきて、大きいスカーフで三角に頭をつつんで、まるでまほう使いみたいだ。小学生くらいの男の子は耳あてのついたかっこいいぼうしをかぶって、ほっぺがまっ赤だった。ふたりはくっついたりはなれたり、おばあさんが笑ったり、男の子がおこったりしてにぎやかにとおりすぎていった。  でも、あたしがびっくりしていつまでも見ていたのは、ふたりがなにをしゃべっていたのかぜんぜん聞きとれなかったからだ。  「どした、えりす」  上着のえりをさむそうにつかんで、譲次さんがふりむいた。その足もとに茶色っぽいかたまりがあった。  それを見たらあたしは、さっきのふたりのことなんてすっかりわすれてしまった。  「雪っ!」  さけんで走りよった。歩道のすみにかたまっているだけだったけど、あたしはむちゅうでしゃがんで、ざらざら手でほじくった。表面はかちんかちんでよごれてたけど、中身はたしかに白くて、指先はじんじん赤くなった。  「そんなのばっちいよ、えりす」  譲次さんは笑って、えきのたてものに入っていってしまった。  あたしはあわてておいかけた。  えきの中できょろきょろさがしたら、譲次さんは公しゅう電話で電話をしていた。受話器をおいて、  「宿の人がおむかえにくるよ」  って教えてくれた。  あたしたちはあったかいえきの待合室で、おむかえを待つことにした。  ベンチにすわったとたん、譲次さんはぐったり首をたれてねてしまった。  あたしはそっとマフラーを譲次さんのかたにかけて、  「おつかれさま」  っていった。  譲次さんはねながらごそごそ動いて、マフラーを首のまわりにきつく巻きつけた。そのかたに頭をもたせかけて、あたしはさっきの気持ちを考えた。
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