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眼の前には遺影が飾られていて、お坊さんが読経を読み上げていた。
皆、それぞれに涙を流し、すすり泣く声が会場中に広がっている。
もちろん僕もその中の1人だ。
亡くなったのは3年間付き合っていた彼女、亜美。
本当に突然のことだった、交通事故に巻き込まれて呆気なく逝ってしまったのだ。
僕の双眸から涙が流れる。そこにツンツンと背中を何から誰かに名前を呼ばれた。
こんな時に誰だよ……僕は若干不機嫌に涙で濡れた瞳を拭い後ろを振り向いた。そして固まった。亜美だ。眼の前に亜美がニコニコしながら立っていたのだ。
思わず叫びそうになったが、亜美が口元に人差し指を立て「しっ」と言っている。後ろの席の同級生はキョトンとしながら僕を見つめている。
どうやら亜美の姿は僕にしか見えないらしい。
葬儀が終わるなり、人気のないところへ亜美を連れ出した。
「これはなんの夢だ?」僕は思わず自分の頬をつねる。
「うーん。なんだかやり残したことがあるみたい。成仏出来ないんだよねー。」
目眩がした。亜美のあっけらかんとした言葉は死人には思えなかった。そっと、亜美の手を掴もうとした。……が、僕の手はするりと亜美の手をすり抜けた。
「触れないよ。だって私、幽霊だもん」亜美はまたもや笑顔だ。
「やり残した事って?」
「わかんない。わかるような気もするけど違うかもしれないし」
「その違うかもしれない理由って?」
「それは……秘密」
「秘密ってなんだよ」
「君にしか出来ない事だよ」
「僕にしか?」
「ね、海行こう海!」
夕方の海は良く2人で行っていた場所だ。砂浜で手を繋ぎながら座って色んな事を喋るのが僕たちのデートだった。
朱い空と静かな波は今日も僕たちを迎え入れてくれるように穏やかだった。
2人で浜辺に座って、手を握れないけれど合わせてみる。
「最後のデートの日、私が言ったこと覚えてる?」
「亜美が言ったこと……」僕はハッと気付いた。
「私のこと、愛してる?」亜美はそう言ったが、僕は照れくさくて「どうだか」と誤魔化したままにしていたのだ。
「亜美……」
「うん?」
「僕も愛してるよ」その目が潤んでいく。「あの時言ってよ、バカ……」
ニッコリと笑った亜美は次第に姿を薄くする。
「亜美!?」
「愛してくれて、ありがとう。君ならすぐに可愛い彼女が出来るよ」
亜美じゃなきゃ嫌だ…そう叫ぼうとしたが既に亜美の姿はなかった。
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