1人が本棚に入れています
本棚に追加
今まで、彼の方向しか見ていなかった為、斜め前に座っていた人物は眼中に無かった。
机を叩き付けた人物は、怒りの形相で私を睨み付ける。
「いい加減にしてよ。あんたのせいで、こんな」
「おいっ!黙ってろ」
彼の優しい声音から一転、甲高い声が私の頭の中を刺激する。あの女は何をそんなに怒っているのか。
きつすぎる香水。肩を丸出しにし、かなり露出の高い服装。つりあがった眉は気の強さを醸し出している。
一目見て、彼のタイプでは無いと思った。
彼の言動を無視して、派手な女は怒鳴り散らす。遂には、私の彼の左腕に泣きながら縋り付いた。
「そんな汚い手で触らないで」
私は片手に持ち、彼の首筋にずっと添えていた包丁を女の首に突き刺した。意外と簡単に刺さり、すぐに女は悲鳴も上げず、絶命した。
包丁を抜く。血が噴き出し私と彼に飛び散った。返り血を浴びた彼は、状況の把握が出来ていないのか眼の焦点が合っていなかった。
再度、彼の首筋に包丁を当てながら、笑顔で問う。
「別れる理由は何?」
血を浴びたショックもあるのか、彼はしどろもどろに言葉を紡ぎだす。
「もう何年間俺の跡を追ってるんだよ。引っ越しても、すぐに合鍵を作って、何度も勝手に部屋に入りやがって。俺には彼女が……」
途中から、彼が何を言っているのか理解出来なかった。泣きながら私に許しを得ようとする姿に思わず溜息が出る。
既に落ちかかった夕日が窓から差し込み、血のついた包丁を照らし出す。
血の色に負けない綺麗なオレンジ色の光を見て、思わず感激の溜息をついた。
最初のコメントを投稿しよう!