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図書室の窓から見える景色は、オレンジ色のライトが照らされたままの陸上グラウンド。いつもなら陸上部が練習する様子が見えるのだが、今日はもう練習を終えて誰もいない。無人のトラックがライトに浮かび上がり、細かい雨に濡れて光っていた。予報外れの雨に、陸上部も早々に練習を切り上げたのだろう。
この日図書当番だった沢村紀花は、返却本を両手に抱え、木製の開架へと一冊一冊戻していた。
春休みも終わりに近い四月三日。外はすっかり暗くなり、黒く分厚い雲におおわれた空にどことなく気持ちが沈む。この雨で校庭の桜もぬれているのだろう。せめて明後日の入学式までは頑張って咲いていてくれないと新入生がかわいそうだと、紀花は抱きかかえた本を身体の前面で支えながら思っていた。
そういえば昨年春の自分の入学式の日に桜は咲いていたのか、それとももう葉桜になってしまっていたのかなど、すっかり忘れてしまった。一年などあっという間だ。
そんなことを考えていると、司書の橘がもう帰るよう紀花に声をかけた。
「沢村さん、暗いしもう帰っていいわよ」
紀花は橘に挨拶をすると図書室を出た。
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