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立川は顎をくいっと上げ、ついて来いと示すと、踵を返して歩き出した。
紀花はあわてて立川を追った。立川の癖、左手で右肩をつかみながら背中を少し丸めて猫背気味に歩く。その後ろ姿をじっと見ながら、紀花の胸はトクトクと高鳴りだした。
――誰にも言えない……。
紀花は、目の前の数学教師、立川史哉に淡い恋心を抱いていた。
立川史哉がこの高校に赴任してきたのは、昨年の九月。二学期のはじめだ。体調不良のために長期休暇をとった数学教師の代替としてやってきた臨時の教師だった。
初めて立川を見たときのことを、紀花は今でもはっきりと覚えていた。
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