午前0時、きみの影を追いかけて

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 それを見れば、私の気分はますます酔っていく。不幸に酔っていく。 「そうだよ。なんたって、その日はお兄ちゃんが殺された日なんだもん。五年前に。ほんと、タイミング悪すぎ」  言葉を乱暴にしてしまえば、その悲惨さが露骨になった。殺されたって言うよりは、ひき逃げされて死んでしまったんだけど……あー、その運転手、男だったな、そう言えば。  横にいる彼は、すっと色を失って無表情になった。言葉も出ないようで、それがやっぱり私には愉快で堪らない。 「私の誕生日は命日。生まれた日なのに死んだ日になっちゃった」  声が震えた。笑ってるから。多分、笑ってるからだと思う。 「そんなだからさー、ママに誕生日ケーキ食べたいとか、言えないじゃん。言えるわけないじゃん。プレゼント欲しい、とかさ。一緒に祝ってよ、とか言えるわけないんだよ……」  そこまで言えば、なんでだろ、声が出なくなった。喉につっかえてしまう。  バカだなぁ、私。なんで言葉にしてしまったんだろう。愉快で堪らなかったはずなのに、滑稽な誕生日だと馬鹿にしてきたのに、なんで言葉にしたら泣いてしまうんだろう。  0時は過ぎたはずだ。もう9月5日じゃないのに。     
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