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「――大丈夫?」
荒く呼吸を繰り返していると、高架下を覗いてくる誰かがいた。暗がりで陰っていてよく見えない。でも、声の質からして若い男だってのは分かる。
「だい、じょうぶ……」
喉から出た声は枯れていた。がさがさの声を整えようと、私は咳払いでごまかす。
「大丈夫そうには見えないけど」
その人は、もう少し顔を覗かせて私を見た。細くて、頭は丸いシルエット。
ストレートの髪の毛だと分かるくらいに近くなり、私は思わず後ずさった。
「あぁ、ごめん。怖がらせるつもりじゃなくって。君が高架下に入ってくのを見たから」
「は? 何、追っかけてきたの? ストーカー?」
「違う違う。そうじゃなくて。なんか、心配だったから」
男は慌てて言った。必死に弁明をしようと両手を振っている。
電車が過ぎ去った高架下はずっと暗い。そんな真夜中にふらつく女の子を追いかけて「心配だったから」とか言っちゃって。意味わかんない。十分に不審者だ。でもまぁ……お互い様か。
なんの承諾もなしに私の世界に入り込んできたその人は、私の様子をこわごわ見ている。
「……家、帰ったほうがいいよ」
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