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しばらくして彼は取り留めのないことを言った。なんか、大人のそれっぽく。
だったら私は子供のままでいよう。
「やだ。まだ帰らない」
「えーっと……おうちの人とか心配するんじゃないの?」
「んなわけないじゃん。今、家に誰もいないんだから」
居ても居なくても、どっちにしろ今日はここで叫びたい気分だった。
息苦しくなるから定期的に大きく呼吸しておかないと耐えられない。生きているだけでもきついんだから。
頭の中はうるさくて、心は冷たくて、気分は重たい。それがずっと続くんだから。死ぬまで。
彼は、高架下の外で困ったように唸っていた。どうにかして私を帰らせようとしているみたい。善人なんだろう。あるいは善人のフリをした人。
「……別に、あんたに関係ないでしょ。私が今日、こんな夜中に一人でいることも、関係ないことじゃん」
「でも、女の子が一人で夜中に歩いていたら危ないって誰でも思うよ。関係なくてもね」
「そんなの分かってるよ。でもわざわざ外にいるんだし。これはもう自己責任だよ」
分かったら消えてくれ。そこまでは言えなかったけど、せめてもの抵抗で男のシルエットを睨んだ。段々と目が慣れてくれば、彼の風貌が浮かび上がってくる。
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