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この世界に生まれてきていいものとわるいものが存在するなんて、幼かった少女は考えもしなかった。
山の奥地に建てられた国立紅山バイオ研究センターは業火に包まれ、センター内はけたたましい警報音とスプリンクラーの音をかき消す爆音が幾度となく鳴り響いた。
「ハヤ!だめだそっちには…!」
幾人もの研究員が避難する中、少女はそれと逆の方向に駆け出していた。
セーラー服のスカートの裾が焦げ、なびく赤褐色の髪にも火種がまとわりつくが、少女の未成熟な脚は立ち止まらなかった。
避難中だった、少女の世話係のバイオロイドに腕を掴まれ、外へ引きずり戻されそうになるのを少女は足を踏ん張って拒んだ。
「あの人が死んじゃう!」
「いけません!博士たちの所に走るんです!逃げなくては死んでしまいます!」
「あの人がまだ中にいるの!ハプトどいて、離してよっ。」
「これはあれが暴れてるんです!ハヤまで巻き込まれてしまいます!」
引っ張り合いになるハヤとハプトの肩を、ぐっと一人の男が掴んだ。少女の父親だった。汗だくで、あちこち焼け焦げた白衣の裾が未だに火種がくすぶっている。
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