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岩手県の山間部に位置する、紅山バイオ研究センターは、数体のバイオロイドの生産に成功した施設だった。
久瀬博士夫妻の娘が紅山バイオ研究センターの内部をよちよちと歩き回る光景は、研究員も警備員も日常の一部でしかなく、下手に研究室に出入りするための認証機に手が届く年頃でもないので、平穏の象徴のようなものだった。
「あ、久瀬博士の娘さんが中庭にいますよ。」
「うん、放っておいて大丈夫だ。中庭にはハプトもいるから適当に構わせておけばいい。」
「はは、バイオロイドに子守をさせるんですか。」
「こっちだってねぇ、手が離せないんだよ。妻も研究室にこもったきり一週間は出てこない。まあよくあることだがね。」
「しっかしのびのびと育ってますねぇ、娘さん。」
「手先が器用だから、早々になにか組み上げてしまうんじゃないかな。」
「久瀬夫婦の子ならありえそう。」
久瀬博士と研究員のそんな会話を耳にすることもなく、少女は研究所にて成長していった。
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