そして彼女は最後に嗤った。

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「おい、No.132!何をしてる、早くこっちに来い!」  物心ついた時、僕の呼び名はそれだった。  揃いの制服を来た教官達が、鞭を持って整列し子供達を引っ立てる。集められたのは中学生以下の少年ばかりだった。僕らはみんな、お互いの名前を知らない。というより、下手をすると名前というものさえない。僕なんてまさにそれで、気がついた時にはこの建物の中にいたものだから、自分の本当の名前があるのかどうかさえわからないのである。  No.132と、教官達は僕をそう呼んだ。  それだけが、僕と他の子供達を区別する唯一の記号であり、名前と辛うじて呼べなくもないものだった。No.132、と呼ばれれば僕は速やかに背筋を伸ばして返事をしなければならない。そして、彼らの元に向かわなければならない。ぐずぐずしていたり機嫌を損ねるようなことになれば、どんな罰が待っているかわかったものではないからだ。  僕は、ここの子供達の誰よりも幼かったけれど、誰よりも長く此処にいた。いかんせん、子供達はたくさんいたけれど、非常に入れ替わりが激しく、同じ顔を一年以上見続けることさえ稀だった為である。  広く、窓のない建物の中で、僕たちは二人一部屋を宛がわれていたが。僕の相方は、かなり短期間でひっきりなしに入れ替わっていったのだった。それも、かなり不自然な形で、である。彼らがいなくなる理由がろくなものでないことには薄々気がついていた。子供がいなくなると、教官達が来てはその荷物をゴミ袋に乱暴にいれて棄てる、というのを何度も目撃しているからである。前の子はどうなったんですか、と尋ねれば返ってきた答えがこれだ。 「お前が知る必要のないことだ。敗北者のことなど忘れろ。究極のソルジャーになることだけが、お前の使命。それだけ考えていればいいのだ」  どうやら、僕たちは最強の戦士になるために集められた存在である、らしい。毎日、食事と睡眠と風呂、短い座学の時間以外の大半が戦闘訓練に宛てられていたからほぼ間違いはないだろう。世界が恐れる、世界に誇れる、究極の人間兵器になるのだ。大人達は繰り返し僕たちにそう言っては、拷問じみた訓練と教育を繰り返したのである。
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