前日譚

9/10
前へ
/38ページ
次へ
【初会合】 女学生アマチュアバンド「虹色ぱれっと」発足から一週間後、西川邸で初めての会議が行われた。 理香「はい!そんなわけでまあ、これから活動を始めるわけだけどーーー」 ここでえらく間を置く理香。果たして次にどんな言葉が飛び出すのか⁉︎ 他の4人も思わず固唾を飲んだ。 理香「・・・何から始めればいいのかな?」 その言葉に4人は「ずこーっ!」と盛大にずっこけた。 麻耶「そこから⁉︎」 里穂「とりあえず何を練習するかだけでも決めようよ」 芽琉「なるほど、練習する曲を決めるんですね」 理香「それもそうか!じゃあ早速曲ぎめしよう!」 瑠奈「その前にある程度方針を固めておかないと」 芽琉「方針ねえ。ルナ姉はどんな感じの曲がいいの?」 瑠奈「んーとねえ…」 瑠奈はしばらく考えてから答えた。 瑠奈「遅かれ早かれ今度やるライブがデビュー戦になるんだし、やっぱりここは誰でも知っている曲がいいんじゃないかな」 理香「えっ、私たちで歌作んないの⁉︎」 瑠奈「それはまだずっと先のこと。当面は既存の曲をカバーする形でやっていきましょう」 芽琉「なるほど。皆さんはどうですか?」 いつのまにか理香のお株を奪った芽琉が麻耶と里穂に訊ねた。 麻耶「うん、私もそれでよかよ」 里穂「私も特に異議はないかな」 芽琉「理香は?」 理香「私も異議はないよ。というかメル姉、私から司会の役を奪ったな⁉︎」 芽琉「なりゆきよ、なりゆき!」 睨みつける理香を軽く受け流して宥める。 里穂「それで、具体的にどんな歌がいいとかいう希望はあるの?」 麻耶「あの、私は“アンパンマンのマーチ”がよかっちゃけど……ダメかいな?」 おずおずと手を挙げて発言する麻耶。 瑠奈「あ、アンパンマンのマーチ⁉︎」 里穂「どうしてですか?」 麻耶「ほら、アンパンマンのマーチって『誰でも知っている曲』やん?それに“それいけ!アンパンマン”の主題歌で出だしから明るいし、何より歌詞が素晴らしい。お客さんに聞いてもらうにはもってこいの曲と思うんやけど…」 芽琉「なるほど…。普段はそんな気に留めませんでしたけど、確かにこれ歌詞がすごくいいですね!」 スマートフォンの画面を見ながら芽琉が真剣な表情でうなずいている。どうやら歌詞を調べているらしい。 梨香「……ふむ、今のところ“アンパンマンのマーチ”という意見が出ています。他にありますか?」 瑠奈「あの、ちょっと古い歌なんだけど“青い山脈”なんてのはどう?」 麻耶「青い山脈?知らんね…。どれぐらい前の歌なの?」 瑠奈「たしか昭和24年のーーー」 理香「昭和24年!ルナ姉、ホントに平成生まれ?」 思いもよらぬ発言に理香からツッコミを受ける。 瑠奈「まあまあ。だけど歌詞が本当にいいのよ。まさに“終戦直後の混乱から立ち上がろうとする当時の人々の気概を描いた歌”といっても過言ではないと思うわ」 里穂「へえ…なかなかいい歌ね。今の日本の歌にない明るい希望を感じるわ」 YouTubeで「青い山脈」を聴いていた里穂が感心して言った。 芽琉「じゃあ、当面練習する曲は“アンパンマンのマーチ”と“青い山脈”でいいですか?他にあるかな?」 麻耶「あまり多すぎても覚えられんごとなるし、その2曲でよかっちゃない?」 里穂「そうね、それぐらいにしておいたら?」 瑠奈「私もそれでいいと思うわ」 理香「みんながそう言うなら私も特にはないかなあ」 芽琉「はい、じゃあ当面の練習曲は“アンパンマンのマーチ”と“青い山脈”です。次に集まるときまでに歌詞付きの楽譜を用意しておきますので次から練習していきましょう」 理香「次回は年明けになるのかな?」 瑠奈「多分そうね」 麻耶「私としてもそっちの方がありがたいかな。年明けからばんばん練習していこうね!」 芽琉「そうですね!里穂さんもそれでいいですか?」 里穂「ええ」 瑠奈「それじゃあ今日の会議はこれで終わりです。ありがとうございました」 全員「「ありがとうございました!」」 瑠奈「それでこの後なんですが、みんなでカラオケにでも行きませんか?」 「カラオケ」という言葉に麻耶が食いついた。 麻耶「賛成賛成、大賛成!! 最近カラオケ行っとらんけんずっと歌いたかったんよ!里穂ちゃん、どっちが上手いか勝負せん?」 里穂「おっ、負けませんよ?」 芽琉「私も勝負したいです!」 理香「じゃあ私もする!」 瑠奈「はいはい、やってもいいからここで騒がないの!」 5人はカラオケ店に向かった。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加