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本編
【初舞台】
新年度。
理香は晴れて第一志望の唐津城西高校に進学。その他のメンバーもそれぞれ無事に進級することができた。
ー
ーー
ーーー
そして迎えた4月10日、土曜日。
いよいよ今日、女学生バンド「虹色ぱれっと」初のライブが行われる。
瑠奈「ああ、ついにこの日を迎えたのね…」
午前9時、西川邸3階の練習部屋。
万感の想いで瑠奈が呟いた。
芽琉「『迎えたのね…』じゃないよ!私、もう頭がどうにかなりそうなんだけど!?」
理香「あわわわわ…手が冷たいよー!」スリスリ
瑠奈「」ギュッ
パニックになっている芽琉と極度の緊張で冷たくなってしまった手を擦り合わせて暖めようとしている理香を瑠奈が抱きしめた。
理香「ひぁっ!?」
芽琉「ね、姉さん!?」
瑠奈「大丈夫、きっとうまくいくわ。今までやってきた練習を思い出して平常心で臨みましょう」
瑠奈の体温に自然と二人の心拍数も下がり、いくらか緊張も和らいできた。
理香「ありがとうルナ姉。少し気持ちが落ち着いてきたよ」
瑠奈「よかった。芽琉は?」
芽琉「うん、私も落ち着いてきた…けど」
瑠奈「?」
芽琉「…もう少しこのままでいてもらっていい?」
瑠奈「ええ、芽琉がそれで落ち着くなら」
そこへ里穂と麻耶が練習部屋に姿を見せた。
里穂「おはよう!」
麻耶「おっ、レアな光景発見!」
瑠奈「……芽琉、もういいでしょ?」
芽琉「えー!? まだ落ち着かないよう!」
瑠奈「少しは落ち着いてきたんでしょう?だから終了!」
芽琉「そんなー!」
急に恥ずかしくなってきたのか、瑠奈が強引に切り上げた。
麻耶「なんの話し?」
里穂「さあ?」
あとから来た二人は不思議そうに首を傾げた。
瑠奈「こほん。じゃ、じゃあ4人揃ったところで音合わせも兼ねて軽く練習しましょうか」
理香「うん、開演は14時だよね?」
瑠奈「ええ、K-OTONOHAの神村さんが昼食をご馳走してくださるそうだから12時にはお店に行きましょう。準備もあるし」
麻耶「よし、頑張って最高の一日にするばい!」
「「「「おー!」」」」
5人の拳が勢いよく突き上げられた。
ー
ーー
ーーー
K-OTONOHAの店内。現在時刻は13時50分、開演10分前である。
5人は舞台裏にある小部屋で円陣を組んでいた。
麻耶「芽琉ちゃん、緊張しとらん?」
芽琉「ありがとうございます、大丈夫ですよ」
理香「メル姉ったら、さっきルナ姉に抱きしめてもらってたもんね」
芽琉「それはあんたも同じでしょ!」
里穂「ふふ、本当に仲がいいのね」
瑠奈「まあまあ、おあいこってことで。……ごほん」
瑠奈が咳払いをすると場の空気が一変した。
瑠奈「えー、今日は4月10日ですね。いよいよ本番です。それぞれ緊張もあるでしょうし不安もあるでしょうが本番は一度きりしかありません。今まで練習してきたことを思い出しながら精一杯楽しんでいきましょう」
「「「はい!!」」」
瑠奈「ここで掛け声を入れたいと思います。えーと…まず私が『この大空の果てまで』と言うのでそのあと全員で“届け、私たちの想い!”と叫びましょう。それではいきます。……この大空の果てまでーーー」
「「「「届け、私たちの想い!」」」」
ーーーー
理香「皆さん、こんにちはー!」
14時の開演と同時にまず全員で一礼したのち、理香が最初にマイクを握った。
理香「初めまして、女学生アマチュアバンド『虹色ぱれっと』です!私はキーボードを担当する理香です!よろしくお願いしまーす!」
観客は優子を含め全部で10人前後。会場のキャパシティを考えるとまずまずの入りだった。
理香「これからメンバーの紹介をしたいと思います。こっちがトランペット担当の芽琉。私より胸が大きい!」
会場から笑いが起こった。
理香「続いてこっちがバイオリン担当の瑠奈!虹色パレットのリーダーなんですけどちょっとシャイで『MCの仕方が分からない』って言ったもんで、不肖この私が司会をすることになりました!」
瑠奈が苦笑いしながらお辞儀すると拍手が起こった。
理香「続いてボーカル!まずアルト担当の麻耶!J-POPはもちろん唱歌や童謡、歌謡曲に演歌まで何でもござれの“歌のデパート”!」
観客がどよめいた。
理香「そしてソプラノ担当の里穂!大学ではアカペラ部に所属する歌のスペシャリスト!」
再び拍手が起こった。
理香「以上、この5人で皆さんに最上のひとときをお届けします。どうぞよろしく!」
『いいぞー!』、『頑張れー!』という声が拍手に混じって聞こえた。
理香「ありがとうございます。いやあ、なんせ初めてのライブですよ。『緊張するなあ』なんて思っていたんですけどねえ、皆さんからの声援を聞いたらそれも吹き飛んじゃった!そんなわけで、まず挨拶がわりにこの歌から始めましょう。チューリップ・財津和夫さんの歌です、“切手のないおくりもの”!」
理香が曲名をコールし、芽琉の元気なトランペットの音で伴奏が始まる。
それはバンド活動開始のファンファーレでもあった。
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