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【新たな展開】
初夏の足音が聞こえ始めた4月下旬のある日、瑠奈に一本の電話がかかってきた。
佐々木『もしもし、佐々木です。久しぶりだね!』
瑠奈「佐々木先生…」
電話をかけてきたのはかつて瑠奈がバイオリンを習っていた九州交響楽団元バイオリン奏者の佐々木春香だった。
佐々木『新聞見たよ。最優秀賞だって?おめでとう!瑠奈ちゃんの努力の賜物だね』
瑠奈「ありがとうございます」
佐々木『まさか瑠奈ちゃんがここまで成長するとはねえ…本当に嬉しいよ』
瑠奈「先生に習っていたあのころが懐かしいですね」
佐々木『うんうん!あれももう3年ぐらい前になるのか...懐かしいなあ。月日が経つのは早いよねえ』
瑠奈が佐々木に師事していたのは唐津に引越してきた年の夏から中学を卒業するまでのおよそ3年間で、当時瑠奈は月に2回、福岡市内にある佐々木の自宅に通ってレッスンを受けていた。
佐々木『芽琉ちゃんや理香ちゃんは元気?』
瑠奈「はい、二人とも相変わらずな感じで元気に楽器をやってますよ」
佐々木『そうなんだね、よかった!』
芽琉や理香も何度か瑠奈と一緒に佐々木邸へ行ったことがあるため佐々木とは面識があった。
佐々木『瑠奈ちゃんは最近何してるの?』
瑠奈「そうですね、コンクールや部活以外では妹と音楽仲間とでちょっとしたバンド活動をやってます」
佐々木『バンド?』
瑠奈「はい、“虹色ぱれっと”っていうんです。この間初めて近所でライブをやったんですけどなかなかウケが良かったですよ」
佐々木『へえ、楽しそうだね!』
瑠奈「はい、なかなか面白いですよ」
佐々木『そうだ!それを聞いて思い出したんだけど、ぜひ瑠奈ちゃんたちに協力してほしいことがあるんだ』
瑠奈「協力してほしいこと?」
佐々木『うん。それがねーーー』
ー
ーー
ーーー
ゴールデンウィークが始まった5月初旬。
西川三姉妹は佐々木から詳しい話しを聞くため、3年ぶりに彼女の自宅を訪ねた。
理香「お邪魔しまーす!」
芽琉「こんにちは」
瑠奈「先生、お久しぶりです」
佐々木「久しぶり!どうぞあがってあがって」
佐々木が住むマンションは福岡市民のオアシス・大濠公園の近くにあった。
最寄りは福岡市営地下鉄空港線の大濠公園駅で、西川邸からはJRが地下鉄と直通運転をしていることもあって乗り換えなしで来ることができる。
佐々木「みんな元気そうでなによりだよ」
芽琉「はい!先生はお変わりありませんか?」
佐々木「うん、私も変わらないよ。相変わらずバイオリン教室は続けてるし…。2年前から新たに演奏会を始めたぐらいかな」
瑠奈「へえ、どこでやってあるんですか?」
佐々木「始めたころはここでやっていたけど、今は青木さんっていう私の高校時代の恩師の家でね。実は瑠奈ちゃんたちにお願いしたいのはその演奏会の手伝いなんだ」
理香「手伝い⁉︎」
理香の目が輝いた。
佐々木「うん。その先生、去年の春に定年退職されてねーーー」
佐々木の話しによれば、高校の国語教師だった青木は退職後、週に2回自宅で高校生や浪人生を対象とした国語の塾を開いているのだという。
その青木が『もっと家を有効活用しながら地域に貢献できる方策はないものか』と、教え子でもあり定期的に青木邸で演奏会を開いている佐々木に相談を持ちかけてきたらしい。
もともと佐々木も『もっと演奏会を盛り上げたい』という思いがあったことから、「それなら元教え子でアマチュアバンドをやっている人がいるので相談してみます」と瑠奈たちに白羽の矢が立ったということだった。
佐々木「先生の家はある程度の広さがあって防音仕様にもなっているから、瑠奈ちゃんたちと私の4人でセッションぐらいはできると思うんだ。3人とも唐津ではそこそこ名が知れているし、福岡へ進出する足がかりにもなるんじゃないかと思ってね。まあ、まずは先生の家に行ってきちんとお話ししなきゃいけないんだけど…」
芽琉「なるほど、面白そうですね!」
佐々木「どうだろう、3か月に1回ぐらいのペースでいいからお願いできないかな?もちろん瑠奈ちゃんたちにもいろいろ都合があるだろうから無理にとは言わないけど」
瑠奈「そうですねえ…」
瑠奈はしばらく考えていたがやがて顔を上げた。
瑠奈「分かりました。とりあえず青木さんのご自宅へお話しを伺いに行きたいんですが、日程はいつがよろしいですか?」
佐々木「本当⁉︎ ありがとう!先方のご予定もあるだろうけど、私は極力瑠奈ちゃんたちに合わせるようにするよ」
瑠奈「ありがとうございます。では近いうちにご連絡差し上げますね。あと、うちのバンドは私たちの他にボーカルが2人いるんですけど、彼女たちも一緒のほうがいいですか?」
佐々木「そうだね。みんなで話し合ったほうが話しも纏まるだろうしそれがいいと思う!」
瑠奈「分かりました。みんなにもそう伝えておきますね」
瑠奈はスケジュール帳を取り出し、欄外に「ミニコンサート(仮)→要検討」としっかり書き込んだ。
ー
ーー
ーーー
それから数日後。
虹色パレットの一行は電車で福岡市博多区にある青木の家へ向かった。
瑠奈「麻耶さん、里穂さん。今日はありがとうございます」
麻耶「ううん、こっちこそありがとね!」
里穂「それにしても元プロの演奏家の知り合いが瑠奈ちゃんたちにいたのが驚きよね」
瑠奈「父の上司のお知り合いなんです。唐津へ引っ越してきたときに紹介して頂いたのがきっかけで…」
里穂「へえ!人生、何が起こるか分からないものね」
理香「青木さんってどんな人だろうねー?学校の先生って堅物なイメージがあるけど、ユーモアのある人だったらいいなあ」
芽琉「うーん、生徒さんからの評判は良かったみたいだしいい人なんじゃない?」
理香「だったらいいけどなあ。なんか苦手なんだよねえ」
JR筑肥線と地下鉄空港線は直通運転している。電車はそのまま地下鉄区間に入り、やがて大濠公園駅から乗ってきた佐々木と合流した。
佐々木「おはよう。今日は本当にありがとうね!」
瑠奈「いえ、こちらこそありがとうございます」
大濠公園駅を出発して4分後、電車は天神駅に着いた。
一行は西鉄天神大牟田線に乗り換えるためここで下車することになる。
瑠奈「先生。さっきは紹介できませんでしたがこの2人がボーカルの里穂さんと麻耶さんです」
地下鉄の改札を出たところで瑠奈が佐々木にボーカルの2人を紹介した。
里穂「初めまして、ソプラノ担当の河原里穂です」
麻耶「同じくアルト担当の原澤麻耶です」
佐々木「初めまして、佐々木春香です。2人ともいい声してるね!」
里穂「ありがとうございます♪」
佐々木「そういえば2人はどうやって瑠奈ちゃんたちと知り合ったの?」
麻耶「ああ、それはですねーーー」
ーーー歩きながら三姉妹に出会うまでの経緯を話す麻耶。佐々木はそれを真剣な表情で聴いていた。
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