本編

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a4825836-ea4b-49cb-b894-4e801a867ee4 9fd031f2-3e0c-4fac-af71-a754a6ba1912 ※吹き抜け部分のイメージ 【開催決定】 西鉄福岡駅から普通電車で13分。一行は福岡市の最南端に位置し、青木邸への最寄り駅である雑餉隈(ざっしょのくま)駅に着いた。 芽琉「この駅名さ、初見じゃまず読めないよねー」 瑠奈「ええ。先生から『西鉄大牟田線の雑餉隈駅が青木先生宅の最寄り駅です』ってLINEが来たとき、“なんて読むんですか?”って聞いたぐらいだもん」 佐々木「九州でも有数の難読駅名なんだ。私だって最初は読めなかったしね。ちなみに雑餉隈っていうのはこの辺一帯の地名で、昔は“第二の中洲”って言われるぐらい栄えていたんだって」 麻耶「へえ、そうなんですか!」 駅からほど近いところに「銀天町(ぎんてんちょう)商店街」という昔ながらの商店街があり、青木邸はその商店街の外れにあった。 里穂「ここですか?」 佐々木「うん」 門扉を開けて玄関まで進み、備え付けのインターホンを鳴らす。 ややあってドアが開き、一人の男性が出てきた。 ?「ああ、ありがとうございます。どうぞ上がって下さい」 この男性が青木(あおき)寛治(かんじ)ーーー佐々木に相談を持ちかけた本人ーーーである。 ー ーー ーーー 青木「それで春香ちゃん、話しって…?」 自己紹介が済んだところで青木が佐々木に尋ねた。 佐々木「はい、実はかくかくしかじかで」 青木「なるほど、そういうことね!俺も『この家でもっと何かしたい』と思いよったけん(思っていたので)渡りに船ですよ。どうぞどうぞ、どんどん使って下さい」 芽琉「本当ですか⁉︎ やったー!」 芽琉が歓声をあげた。歓声をあげたのは芽琉だけで、他の4人は思考が追いついていないのかポカンとしている。 芽琉「よし、そしたら場所の選定ですね!佐々木先生、どこが一番音の響きがいいですか?」 佐々木「その吹き抜けの下はどうかな?そこはよく音が響くよ」 青木の家は二階建てで一階にはキッチンと地続きの居間のほかには風呂やトイレなどの共用スペース、二階には青木とその妻の部屋がそれぞれ1部屋ずつあった。 二階の青木が使っている部屋の向かいには物干しスペースがある。一階部分の明かりとりも兼ねて床がガラス張りとなっており、下から見るとそこだけ若干天井が高く吹き抜けのような構造になっていた。 芽琉「おお、いい感じ!」 瑠奈「なるほど…少し天井が高くなっているから音が響きやすいのね。青木さん、試しにそこで一曲弾いてみていいですか?」 青木「よかですよ」 青木の許可を得て瑠奈が吹き抜けの下に立った。 瑠奈「……この場所、すごく明るくていいですね」 里穂「たしかに。劇場のステージみたいね」 里穂が感心したように言った。 瑠奈の頭上からは窓を介して日光が燦々と降り注ぎ、さながらスポットライトを浴びているようだ。 瑠奈「では、いきます」 準備を終えた瑠奈がバイオリンを構え、やがて静かに弾き始めた。曲目はエルガーの「愛の挨拶」である。 瑠奈(こ、これは…!) 理香「おお…」 麻耶「音がいい具合に響きよるね…」 音の響き具合に5人とも大層驚いた。 天井が少し高いのと家の遮音性が見事に調和して音が綺麗に反響し、ちょっとしたコンサートホールの様相を呈していたからである。 瑠奈(低音から高音まで綺麗に響き渡る。……ああ、本当に最高のステージね。) 最高の場所(ステージ)で奏でられる上質なクラシック。 瑠奈は始終楽しそうに演奏していた。 ー ーー ーーー 瑠奈「あの、どうでしたか…?」 瑠奈が恐る恐る青木に尋ねる。 青木「いやあ素晴らしい!それしか言えんばい‼︎」パチパチ 対する青木は拍手で応えた。 麻耶「瑠奈ちゃん!もう本っっっっっっ当によかったよぉ‼︎」 麻耶が言った。感動のあまり涙ぐんでいる。 芽琉「姉さんの演奏聴いたら私も演奏したくなってきちゃったなあ」 ウズウズしながら芽琉が言った。 理香「いま気づいたけどあそこにピアノあるじゃん!私もピアノ弾きたーい!」 ピアノが据え置かれているのに気づいた理香が興奮気味に言った。 佐々木「まあまあ、今日はお試しってことでこれぐらいにしておこうよ」 里穂「そうですね。それにしても青木さん、ここは本当に素敵な造りの家ですね!」 話しの風向きが変わったため芽琉と理香も渋々の体で諦め、仕方なく会話に加わる。 青木「ありがとう。この家は6年前に親父が持っとった土地の一部とアパートば売って、そのお金でリフォームした家なんですよ」 芽琉「そうなんですね。キッチンもとても素敵…」 青木「ああ。前の家の台所が狭かったけん、大人数で料理ができるごとアイランドキッキンにしたとですたい」 佐々木「先生は料理もお好きでね。しかも“お店を開いてもいいんじゃないか”って思うぐらい料理が上手いんだよ」 佐々木が補足する。 芽琉「そうなんですか⁉︎ 食べてみたいです!」 瑠奈「へえ…私も興味が出てきました」 理香「料理ができる男の人ってカッコいいですよねー!」 三姉妹は三者三様の反応を示した。 青木「まあ、いつか機会があれば披露しますよ。それはそうとお腹空いとらんですか?」 瑠奈「そういえば確かに…。もうお昼ですもんね」 青木「ここの二軒隣が“むぎの”っていうお好み焼き屋でね、それこそ俺がガキのころから行きよる馴染みの店なんですよ。頼んだら持ってきてくれるけん今から頼もうと思いようっちゃけど、もしよかったら一緒に食わんですか?」 里穂「いいんですか⁉︎」 青木「そらあもちろんよかくさ(いいよ)。どげんするね?」 麻耶「はい、ぜひとも!」 里穂「せっかくですのでご一緒させていただきたいです!」 理香「私たちも!」 佐々木「じゃあ私も…」 青木「分かりました。注文してくるけん待っとって下さいね」 一同「ありがとうございます!」 ーーー青木は手早く人数を数えると二軒隣にあるお好み焼き屋「むぎの」へ歩いていった。
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