2人が本棚に入れています
本棚に追加
【希望の光】
瑠奈「ーーーええ、わかりました。ありがとうございます。はい、それでは失礼します」ピッ
長いこと電話で話しをしていた瑠奈が電話を切った。
瑠奈「・・・ふう、知らない人と電話で話すのもなかなか緊張するわね」
理香「ルナ姉、どうだった?」
ずいぶん相手とやり取りしていたので不安になったのだろう。理香が瑠奈の顔を覗き込みながら聞いてきた。
瑠奈「ええ、結論から言うとOKだったわ」
それを聞いた一同から安堵のため息が漏れた。
瑠奈「ただね、条件があるらしいのよ」
麻耶「条件?」
瑠奈「はい、『選曲はできるだけ昭和40年代から50年代に流行った歌謡曲のなかから行なってください』とのことです。『できれば10日以内に報告をお願いします』とも言われました」
芽琉「昭和40年代か…。今回のコンサートに来られる方たちがちょうど現役で働いていたころだね」
瑠奈「そうなるわね。ただ、私はあまりそのころの歌を知らなくて…里穂さんは何かご存じですか?」
里穂「サークルで歌うのは現代寄りの歌が多いからねえ。残念ながら私も分からないわ」
しばらく考えてから里穂が言った。
理香「親に聞いてみるってのはどうかな?」
麻耶「私たちの親世代が生まれたころに流行った歌やけん多分望みは薄かろうね」
里穂「じゃあ現段階ではこのコンサートの件は断らざるを得ないってこと?」
瑠奈「ええ、そうなりかねません」
一同がため息をつく。
瑠奈「・・・早くも暗礁に乗り上げたわね」
瑠奈は思わず頭を抱えた。
無理もない。彼女らの親は今回対象となる年齢層より20歳ほども若いのだ。よほど興味がない限り自分が生まれたころの歌を調べようとは思わないだろう。
理香「こんなときに誰か頼れる人がいればいいのになあ。歌が好きでどんな歌でも歌える人か、異なる年代の人と触れ合う機会の多いーーーんん!?」ガバッ
寝転がっていた理香が不意に起き上がった。
理香「そうだ、神村さん!K-OTONOHAの神村さんがいた!」
全員「「ああ!」」
西川邸の近くにK-OTONOHAというライブ喫茶がある。
春に「虹色ぱれっと」初のライブを行なって以降、多忙もあって同店でのライブは開催できていないものの店主の神村優子とは懇意にしていた。
理香「幅広い年齢層の方を相手に商売してある神村さんなら知ってあると思う!」
芽琉「たしかにそうよね。なんで今まで思いつかなかったんだろう…」
理香「あともう1人思い当たる節があるよ。みさきち!」
里穂「みさきち…って誰?」
理香「ああ、それはねーーー」
ーーー新宮美咲。去年の秋に西川邸へ遊びに来た西川三姉妹の従兄、二宮浩司の友人だ。
彼女らの演奏を聴いた美咲は三姉妹の持つ魅力を最大限活かすためバンドの結成を提案した。いわば虹色パレットの発起人である。
麻耶「なるほど…。その美咲さんって人はそげんたくさんの歌ば知っとんしゃあと?」
理香
「分かんないけど『何か歌って』って頼んだらパッと唱歌の題名を答えたし、歌が好きなのは確かだと思う。だからきっと相談にも乗ってくれるよ!バンドを結成したときLINEで報告したけどそれっきりだから久しぶりに連絡も取りたいしさ」
芽琉「ちゃんと連絡取り合わないとダメじゃん!理香しか美咲さんのLINE知らないんだからさー」
理香「うん、そこはきちんと謝るつもりだよ」
瑠奈「でもまあ、理香にしてはなかなかの名案ね。私も考えつかなかったわ」
理香「えへん、そうでしょ!……ってまた『理香にしては』って言う!なんでそんなこと言うの!?」
瑠奈「なんか理香を見るとからかいたくなってくるのよ」
理香「何それ!酷くない!?」プクー
理香が怒ったように頬を膨らませた。
芽琉(理香もまだまだ子どもね。)クスッ
理香「メル姉まで笑ったー!もう知らない!!」フン!
ついには理香が拗ねてしまった。
里穂「芽琉ちゃん、理香ちゃんあれでいいの?」
芽琉「ええ、いつものことですからどうせそのうち元に戻りますよ」
理香「ちょっと!小声で話してるつもりだろうけどこっちにバッチリ聞こえてるからねー!」
いつの間にか先ほどの重くなりかけた空気が緩み、いつもの和やかな雰囲気が戻ってきていた。
麻耶「……ま、まあ方法が見つかったけん良かったたい」
瑠奈「ええ、突破口が見つかるのであればそれに越したことはないですからね。ーーーさて」
瑠奈が立ち上がった。
瑠奈「では早速ですけど今から皆でK-OTONOHAに行きましょう」
一同「「うん!」」
瑠奈「理香は美咲さんに連絡お願いね」
理香「了解だよ!」
するとそれまで曇っていた空が晴れ、雲間から太陽が顔を覗かせた。
里穂「ん?空が明るくなってきたわ」
理香「本当だねー」
思わず出口へ向きかけた足を止め、一同は窓から外を見ている。
『希望の光が見えてきたわね。』
ーーー瑠奈はその光景を眺めながら心の中で呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!