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不意に、思い出した。
未絵子の無邪気な問いかけ――気になる人いないの、と。
香子さえいなければよかった、と、かつて淡々と告げたコモリ。
神様に会いに行けば、必ず隣にいたコモリ。神様が人の好い笑みを浮かべる横で、大抵はそっけなく、時には意地悪をされた。
彼は、「おじじ」の神使――御使いだった。
主の不在は、使いの存在を揺るがす事態だ。コモリを消さないために、おじじはコモリに役目を与えた。
曰く、カコを己の代わりに守るように、と。
以来、コモリは決して、香子のそばから離れない。危険を遠ざけ、身を挺して庇う。
コモリから、主を奪ったのは、香子なのに。
苦しくても、嫌いになんてなれないし、好きになるのは許されない。離れることは、彼と神様の縁を切ることだった。
どうして絵を描く、と西野は尋ねた。
これしかなかった。絵は、自由だった。光の反射では映らない何かを、確かに形にできるから。
誰にも言ったことがなかった。この先、誰かに言えるとさえ、思わない。
私は、いつか……失ったものを取り戻すために。
――神様を描く。
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