第1章

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 「どうして僕がひどいんだよ。えりすは、ちょっとこのごろ意地悪だなあ。僕がこんなだからつまんないんだろう。だから、遊びに行っておいでって言っているのに」  っていったので、あたしはびっくりして、のどのおくがちくっとした。  「あたしなんか、」  気がついたら、どん、とじゅうたんをふんでいた。  「どうせ、どうせ、ずっと前からいじわるだよ、悪い人だよ!」  あたしの声はすごく大きくて、譲次さんは目をまん丸にした。でもとめられない。  「あたしのこときたないって思ってるんでしょ、だから、さわらせてくれないんでしょ、そうだよ、あたしはインバイだもん、きたないこといっぱいしてるよ!」  「えりす、やめなさい」  譲次さんはまじめな顔になって、まじめな声を出したけど、あたしはやめなかった。  「譲次さん、あたしがいないと思ってたでしょ、でもあたしいたの、聞いてたの、きのうのきのう、譲次さん、おうちに電話かけたでしょ、もうすぐ帰るっていったでしょ!」  はっきり、譲次さんはぎくりとした。  「……落ち着いて、えりす」  いたいのをがまんするみたいな声だった。「そんなことしない」とはいってくれなかった。  あたしの頭の中はまっ白になって、くわんくわんて音でいっぱいになった。  そのあと、たしかにあたしは泣いたりわめいたりした。でも、ほんとのあたしは天井のあたりにいて、泣いたりわめいたりしているあたしを上から見ていた。下のあたしはさけんだ。  「譲次さん、帰っちゃやだ、ぜったいやだ! やだやだやだ! 帰らせない!」  「ああ、これはずっと前のいつかの夜、いいたかったのにいえなかったことばだ」って、上のあたしは思った。
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