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「どうして僕がひどいんだよ。えりすは、ちょっとこのごろ意地悪だなあ。僕がこんなだからつまんないんだろう。だから、遊びに行っておいでって言っているのに」
っていったので、あたしはびっくりして、のどのおくがちくっとした。
「あたしなんか、」
気がついたら、どん、とじゅうたんをふんでいた。
「どうせ、どうせ、ずっと前からいじわるだよ、悪い人だよ!」
あたしの声はすごく大きくて、譲次さんは目をまん丸にした。でもとめられない。
「あたしのこときたないって思ってるんでしょ、だから、さわらせてくれないんでしょ、そうだよ、あたしはインバイだもん、きたないこといっぱいしてるよ!」
「えりす、やめなさい」
譲次さんはまじめな顔になって、まじめな声を出したけど、あたしはやめなかった。
「譲次さん、あたしがいないと思ってたでしょ、でもあたしいたの、聞いてたの、きのうのきのう、譲次さん、おうちに電話かけたでしょ、もうすぐ帰るっていったでしょ!」
はっきり、譲次さんはぎくりとした。
「……落ち着いて、えりす」
いたいのをがまんするみたいな声だった。「そんなことしない」とはいってくれなかった。
あたしの頭の中はまっ白になって、くわんくわんて音でいっぱいになった。
そのあと、たしかにあたしは泣いたりわめいたりした。でも、ほんとのあたしは天井のあたりにいて、泣いたりわめいたりしているあたしを上から見ていた。下のあたしはさけんだ。
「譲次さん、帰っちゃやだ、ぜったいやだ! やだやだやだ! 帰らせない!」
「ああ、これはずっと前のいつかの夜、いいたかったのにいえなかったことばだ」って、上のあたしは思った。
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