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ごほごほ、しばらくせきこんだ。
「……僕なんか、心配しないでくれ……もちろん、ちゃんと話し合う……君の言うとおりだ……うん、約束する……わかった……」
ろう下からのぞくへやの中はまっ暗で、すがたはぜんぜん見えない。でも声は、まるであたしの耳のすぐそばにいるみたいにはっきり聞こえた。
譲次さんはたしかにいった。
「すぐに帰る」
気がついたら、あたしはゆかたも長ぐつもぜんぶぬいでおふろ場にいた。
プールぐらい大きいおふろにすきとおった緑色のお湯がゆれて、下からのライトで光る。白くにごったお湯じゃなかったので、はじめはちょっとがっかりしたんだっけ。でも、今見たらすごくきれい。
― えりすは俺のものだ。
体がぴくん、として、きょろきょろまわりを見た。だれもいない。
光とかげのあみめもようになったお湯に、ちゃぽんとしずんだ。あたしの体はライトに照らされてまっ白で、むちむちいやらしくゆがんだ。
― おまえは、俺のものだ。
今度ははっきり聞こえて、あわててお湯から上がった。
でも聞こえるはずないってわかってた。ほんとの音はお湯が流れる音だけだ。
体がどんどん冷たくなっていく。ばかをとおりこして、頭がくるった人だと思った。
おけでお湯をくんで、何度もあびた。
その後、ごしごしかみや体を洗ったけど、あたしのきたないものはちっともとれなかった。
そうっとカーテンをひらいて、あたしは、
「うわ」
って、声を上げた。
まどの外、きのうまでのかれ草色の原っぱは、たくさんのまっ白な丘に変わっていた。
遠くにおとうさんらしい大人とふたりの子どもがいて、すべったりころがったりしていた。子どもの笑い声がきれぎれに聞こえてくるのに、あたりはすごくしずかだ。
「うわーうわーうわー」
すっかりわくわくして、体じゅうがぽっぽとあつくなって、あたしは知らない間にぴょんぴょんとびはねていた。でも、
「あ、ごめん」
っていってふりかえった。後ろがごそごそしたからだ。
あたしは全そく力でベッドにかけていって、
「うるさかったね、まぶしかったね」
っていいながら、起きてすわろうとするのを手つだった。
譲次さんはずいぶんほっぺがやせちゃって顔色も白かったけど、熱も下がって、病気の一番悪いところはすぎたように見えた。きのうお医者さんにみせて、点てきを打ったりクスリを飲んだりしたからだ。
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