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さく。
首をふって体を起こし、見まわした。あたしは泣きながら雪の中にいた。
立ち上がって、長ぐつを下ろした。
長ぐつはやわらかい雪に、すっかりうまった。
さく……さく……さく……ひざまでうまりながら、えっちらおっちら走りだした。吐く息がほわほわのわたになって、後ろへとばされていく。丘をのぼると、灰色の空がどんどん近づく。
てっぺんまでたどりついて、あたしは服や手のひらについた雪のつぶつぶを見た。ようく近くで見ると、まっ白でとげとげですごくふしぎな形をしている。
白い息を吐いて、空を見上げる。雪のつぶがどんどんどんどんとぎれないで落ちてくる。近くで見るつぶはまっ白なのに、こうやって見上げたら黒く見える。すごくふしぎでいくら見ててもあきなかった。
あんまりせ中をそらせたので、そのまま後ろにたおれた。ずごっと耳のそばが鳴ったあと音はぜんぜんなくなって、体全体がすっぽりつつまれたのがわかった。
これならいくらでも見てられる。あたしはすっかりまん足だった。
灰色の空にかくかくしたかげがかかった。
「奥様まで、お風邪を召しますよ」
そういってかさをさしかけたのは、あのおむかえの人だった。きつねみたいにつり上がった細い目をもっと細める。
この人は星野さんといったっけ。きのうホテルの中で会って、譲次さんが病気になったことを話したら、たちまちお医者さんをよんだり、ふとんをとりかえたり、加しつ機をつけたり、特別なスープを持ってきたり、次から次へまほうみたいに、いろんなことをしてくれた。
あたしは急いで起き上がろうとしたけど、うまく力が入らなくって起きられなかった。星野さんは、
「大変失礼いたします」
っていって、あたしの手をにぎってひっぱった。
たちまち、あたしは丘の上に立っていた。
星野さんはあたしの体の雪をぱっぱとはらって、かたに長いコートをかけてくれた。
コートをきたら、あたしははじめてあたしの体が雪とおんなじくらいに冷えてるのに気がついた。えりをつかんでぶるぶるふるえだした。
星野さんはすました白い顔で、
「鈴木の奥様のお望みどおり雪が降りまして、私も大変うれしゅうございますが、この季節、外出の際は防寒着をお召しになることをお勧めいたします。僭越ながらご提案申し上げますが、いったんホテルにお戻りになりお体を温めてはいかがでございましょう」
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