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っていった。
あたしは歯をがちがち鳴らしながらうなずいた。それはすごくいい考えだって思ったけど、ふるえすぎで声が出なかった。
星野さんは、あたしをたてものまで連れてってくれた。手をひっぱって丘を下りるときも、ガラスのドアをあけるときも、お城のえらいけらいみたいにきちんとしていた。まるであたしが女王さまだっていうふうだ。
たてものの中に入っても、あたしのぶるぶるはとまらない。星野さんは、
「奥様、このまま大浴場に行かれたらいかがでしょう」
っていった。
それもすごくいい考えだとあたしは思ったけど、やっぱり声が出なかった。
星野さんはちっともかまわないってふうに、
「では私今から、ご主人様にご伝言申し上げに参ります。そのベンチコートはご逗留中、お好きにお使いくださいませ」
っていった。
「ありがとう」っていおうとして、あたしは池のこいみたいに口をぱくぱくさせた。
星野さんはにっこりうなずいたけれど、あたりのようすをちょっと気にして、半分ひとりごとみたいに、
「なんだか館内が騒がしゅうございますね。この雪のせいでしょうか」
っていった。でも、もとのはっきりしたいい方にもどって、
「奥様、大変申し上げにくいことでございますが、これからはローブのままお部屋からお出になりませんよう、伏してお願い申し上げます。では」
っていった。それからおじぎをして、すいーっと歩いていってしまった。
さむいのに、あたしの耳と顔だけあつくなった。
そうだった、こういうホテルでは、ゆかたやバスローブでドアの外に出たらはずかしいんだった。譲次さんがさいしょに教えてくれたのをすっかりわすれていた。
くしゃみひとつして、歯をがたがた鳴らしながら、あたしは急いでおふろ場へ行った。
おふろ場の前で、おかあさんと女の子とすれちがった。
「さっきの音、なんだったのかな」
って、女の子がおかあさんに聞いた。
「さあねえ、雪の重みで木の枝が折れたとか……」
っておかあさんはほっぺに手をやったけど、思いついたらしく、
「あ、きっとマタギだ。熊をつかまえたんだよ、きっと」
っていったら、女の子ははあ、とあきれたふうにため息をついた。
「おかあさん、くまは冬眠してるよ、もう」
「あ、そうか……だったら、うさぎかも。うちのぷーちゃんみたいなでぶうさぎ」
「いやああ」
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