第1章

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 女の子がおかあさんをたたいて、おかあさんは笑いながら、ふたりはおふろ場に入っていってしまった。  おふろ場をとおりすぎて、あたしは歩きつづけた。  頭はぼんやりあつくって、せ中はぞくぞくして、いろいろ思い出してきた。  さっき、あたしは譲次さんにひどいことをいっぱいいっぱいぶっつけて、さんざん泣いてわめいて、へやをとびだしてきたんだった。  譲次さんはちっともおこったり大きい声を出したりしなかった。  悪いのはぜんぶあたしだ。ちゃんとあやまらなくちゃ……譲次さん、ゆるしてくれるかな……譲次さんはやさしいし親切だから、きっとゆるしてはくれる……けど……きっとそんな女、もう好きじゃないかも……そしたらどうしよう……歩くごとにだんだん自信がなくなって、あたしの足はだんだんゆっくりになって、とうとうとまった。  ちょうどさっきのガラスのドアのところだった。  かべ一面がまどになっていて、ここからの雪景色はやっぱりきれいで、さみしいのもわすれてあたしは見とれた。まっ白な丘がこんもりもり上がって、いくつもつながっていく。近くの林はまるでレースをかざったみたいだ。  そういえばって、あたしはぼうっとする頭で思った。起きたばっかりにさっきまで見てたゆめを思い出すみたいな感じだ。  きっと今ごろ譲次さんはねてる。心配事なんてもう二度と考えないで、すっかり安心してぐっすりねてる。だから、あわてないでもだいじょうぶなんだ、って思いながら目を下ろすと、ドアのすぐ外の花だんのふちに、小さい雪だるまがみっつならんでいた。さっき遠くでころがってた家族が作ったのかな。あんまりかわいいんで、いつの間にかあたしは笑ってた。  「譲次さんに雪だるま、作ってってあげよう。それから、ちゃんとごめんなさいっていおう」  思いついたら、ずいぶん体がかるくなった。  あたしはガラスのドアをおして、もう一度外へ出た。    今度はコートをきていたので、そんなにさむくない。  近くから雪をとって、おにぎりみたいに丸めようとした。けど、雪は水気のない小麦こみたいに手からぱさぱさこぼれて、ちっともかたまりにならなかった。それでもぎゅうぎゅうやってたら、強い風がさっと吹きつけて、思わずあたしは目をつぶった。そのすきに手の中の雪はどっかへいってしまった。  「もう!」  あたしはおこって、風をにらんだ。
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