第1章

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 でも風は目に見えない。さっきよりもずっと多い雪のつぶが、めちゃくちゃな方角にちらばっていくだけだ。  にくたらしい風をおいかけて、あたしは雪をこいで丘を上った。もう少しでてっぺんというところで、向こうに黒っぽいものが見えた。あたしは目をこすって、海ぞくの見はり番みたいにおでこに手をやった。  黒っぽいものはぼんやり人の形になった。丘のてっぺんに立っている。数えきれない雪のつぶの向こうで、じっと空を見上げていた。  あたしはゆっくり手を下ろした。  雪と風がめちゃくちゃに吹いて、青い上着と白いかみが、ばさばさゆれた。横を向いて空を見上げているけど、あたしが来たのをちゃんと知っていた。  「よお」  って、空を見上げたままいった。  「また会ったな、えりす」  「また会った、じゃないよ」  って、あたしはいった。  「なんでついてくるの」  上を向いた鼻で笑った。  「おまえ、ずいぶん意地悪じゃないか」  「もうほっといて」  かんかんにおこって、あたしはさけんだ。  「なんで、ここがわかったの」  「なんでって」  あたしを見ないまま、ちょっとうつむいた。  「そりゃ、あれだ……愛の力だ」  自分でいったくせに、はずかしそうに鼻をこすった。  「ふざけないで」  あたしは歯を食いしばって、雪の中で足をふんばった。  「どうして、ここがわかったのって聞いてるの」  かすかにかたをすくめた。  「だから、おまえが、俺を呼んだんだ」  あたしの息はつまった。  この人はぜんぶわかってるってわかったからだ。  譲次さんの病気や、おとといの電話や、あたしがおふろ場でしたこと、さっきのケンカ……。  体にくっつく雪をふりはらって、あたしは大声でさけんだ。  「よばないよ、あたし、丈一さんなんて、よばない、ぜったいよばない!」  そのとき、まっ白だった目の前に、ぱっ、とあざやかな赤がとびちった。  あたしは目を大きくひらいて、何度かまばたきをした。  「本……あたしの本?……」  口のはしがつり上がった。  「ご名答」  「機械かなんかしかけたの?」  こっくりうなずいて、さむそうな早口でいった。
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