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「おまえがあの本をこっそりレインコートにしのばせなければ、さすがの俺もこんな簡単にたどれなかった。いくら小型になったとはいえ、発信機も込みでつけたら厚さは一センチを超える。本を一度でも開いたら一発で見つけたろうに。そういうとこホント、おまえ抜けてるぞ」
笑いながら、手の甲で鼻をごしごしこすった。ばんそうこうを巻いた指も鼻の先も、さむいせいかまっ赤だ。
「おまえがつまんねえことにこだわるから、鴎が考えたせっかくの計画も、譲次のしんどいロングドライブも全部台無しだ。いや、自分を責めるこたない、えりす。人には誰だって、どうしたって手放せないもんが……」
さえぎって、あたしはさけんだ。
「ひどい、ひどいよ、丈一さんなんて、大っきらい!」
丈一さんは全身をびくっとさせた。口はまだ笑っていたけど、白っぽい目はおどおど動いた。
その顔を見て、あたしはあたしのむねをにぎりしめた。
「泣いてるの?」
丈一さんは首を横にふった。半びらきの口からゆげがもれた。
「いや、雪見てたら思い出した……ガキのころ」
かたや頭はぐらぐらして、まるでよっぱらっているみたいだ。
「俺らにだってガキのころはあった。雪の日は人並みにテンション上がって、外へ飛び出した。だけど、雪だるま作っても、雪合戦やっても、なぜだか最後は取っ組み合いの大ゲンカだ……親が出てきて、俺だけ殴られて終わり。物心ついたときから仲の悪い兄弟だった。だから、」
あたしはもっと力をこめてコートのむねをしぼった。いやな気持がした。すごくいやな気持ちだ。
「やめて」
あたしの声は小さくて、あたしにも聞こえなかった。
丈一さんはまた口をこすって、
「平気だと思ってたんだ」
っていった。ぜんぜん平気には見えなかった。
「やめて」
今度はもう少し大きい声が出た。
ゆっくり、丈一さんはこっちを向いた。
「譲次が、」
目の前に青い上着があった。雪の中なのによくわかった。べっとり赤くよごれていた。
「……」
あたしのひめいのせいで、あたしは聞こえなかった。後じさりしようとしたけど、足が雪にうまって動かない。
ぎくしゃく、ぎくしゃく、丈一さんはかたをゆらしてこっちに来る。どんどん近づく。あたしのすぐ前まで来て、立ちどまって、
「あれ、」
ごそごそずぼんや上着のポケットをさがしはじめた。
「あれ、」
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