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中庭いっぱいに朝日がさしこむ。ほそい桜のえだに、白い花がちらちら光る。
車いすの手すりの上で、鴎さんはまぶしそうに目を細める。
体をねじってあたしを見下ろす。
「譲次さんに、あれを持たせたのは僕だって、知ってたんだろ?」
「あ、れ?」
あたしの首はぐらぐらする。ほとんどねちゃいそうだ。
「長い危険な旅にはあるといいよって、一通りご指南申し上げた、いや」
鴎さんはあごに手をやって、ちょっと考えるふうだ。
「ほんとはおれ、譲次さんが樋口をやってくれるんじゃないかって期待したんだよね。つまりは彼を試したんだ。真実君を愛しているなら、あいつのやったことは許せないはずだし、あいつを野放しにはできないって思うはずなんだ……え、真実の愛?」
自分でいって、げらげら笑いだす。はあはあ息をついて、なみだを指でふく。
「そんなものが存在するんなら、ユニコーンかつちのこぐらい貴重だね。まあ正直君の恋人は、あの樋口のタマをとったり、逃亡生活を見事完遂したり、そんなことができるほどタフなタイプじゃない。でも、努力の果てに挫折する姿こそが美しいんだ、鑑賞に値するんだ」
あたしはぼんやりつぶやく。
「鴎さんは丈一さんのこと、好きだって、思ってた」
鴎さんは両方のうでを大きく広げて、
「そりゃ、もちろん好きだ、今だって、いつだって。やつがその気なら、スクランブル交差点の真ん中でだって受け入れてやるよ。だからって、片想いの意趣返しだなんて思わないでくれよ……」
またぺらぺら話しだしたけど、早すぎてよく聞きとれない。
ぼんやりする頭のすみで、あたしはうっすら思う。こんなおしゃべりに意味はない、って。鴎さんのことばはうそでもほんとでもなくて、ただそこらの空気をふるわせてるだけなんだ、って。鴎さん、しゃべるのをやめるのがきっとこわいんだ、って。
あたしの思ったことがつうじたみたいで、鴎さんは車いすから下りる。
「でも現実は、違う方向にいっちゃった。おれは全然予測できなかった」
ちゃんと立ってあたしを見下ろす。なんだか、夏の終わりの道に落ちてる、セミでも見るみたいな目だ。
「君が、相川譲次を撃ち殺すだなんて」
あたしはあたしの顔を指でおさえる。電気がとおってるみたいに、目の下の皮がぴくぴく動く。
はっかのにおいのする息が、あたしの耳にかかる。
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