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「どうして君は恋人に手をかけたの。おれはそれだけ知りたいんだ」
ぴくぴくはびくびくになるけど、鴎さんはやめない。もっと近づいて、ほっぺとほっぺがくっつきそうだ。
「安心しなソーニャ、公式の記録の上では、カレシは自殺だ。かわいそうな君が刑務所に入ることはない。樋口警部補、そういうところはうまい具合に細工を凝らした。ま、それが君への贖罪なのか懲罰なのか、僕にはわからない」
あたしは指の間から見ている。
鴎さんはスーツの内ポケットに片手をつっこむ。くるくるまわしながら出したのは、あの日とおんなじ形のピストルだ。
「拳銃って、撃つと火薬やなんかが手や袖にくっつく。誰が発砲したのか、それが証拠になるわけ。ねえソーニャ、ここで引き金を引いたら」
かちりと金ぐを起こし、あたしのおでこにくっつける。
「いくら凶器をかくしたって、君の頭を吹っ飛ばしたのは僕だってばれる」
あたしは、鴎さんの手が器用に動くのを見るのが好きだ。手を下ろし、顔を上げて笑う。
鴎さんはピストルをはなし、くるくるまわしてもとどおり内ポケットにしまう。ちょっと悲しい顔だ。
「君にとって、僕なんてまばたき一つほどの価値もないんだね」
あたしはもっと笑って、
「かみそりでもピストルでもチョコアイスでも、鴎さんが持ってたらちっともこわくない。あたし鴎さん大好き。だって、すごくすごくいい人だから」
っていうと、鴎さんも笑いだす。
「懐かしいこといってくれるね、ソーネチカ。ああ、あの頃の牧歌的なことったら、僕らはまるでアルプスのやぎ飼いだったね」
くすくすしながら、また車いすの手すりにおしりをひっかける。あたしのほっぺをちょんとつっつく。
「じゃあ、僕に首ったけの居眠り学生さん、授業を続けよう。鴎先生は、あの朝の出来事を順番に説明しなくちゃならん。もちろん、耐えてくれるよね」
あたしの目の下がまたびくっとして、頭の中には白いきりがわいてくる。
鴎さんは片方のまゆ毛を上げて、ちらっとあたしを見て話しだす。
「第一発見者は、ルームサービス係のおねえちゃんだ。ぱんっ、て、風船が弾けたような音を部屋のすぐ前で聞いて、インターホンを押した。応答がなかったけど、マスターキーでドアを開け中に入って、血まみれで倒れるベッド上の譲次さんを発見した。いやはや、勇敢な女の子だったな」
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