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「そんな、ちん腐な理由じゃない。なんたって、きみは神がかりだもんな」
あたしを見ようとするけど、目も頭もぐらぐらしすぎだ。
「最愛の人をころすことで、全ての人のつみを背負ったんだ。この世界は全部きみのいしきの中にだけ存ざいするんだね、なら、も一度、足にキスさせておくれよ、ソーニャ……」
とうとう地面におしりをついて、べったりすわりこむ。口が半びらきになって、よだれがたれるのをふきもしないで、鴎さんはぶつぶつ話しつづける。
「いや、それもちがう……けっきょく、譲次さんは自殺、ひぐっちゃんは例のごとく自傷で……わかんないや、なんでしんじゃったのママ……おれのせいなの……あ、見ててみてて」
上着の内がわに手をつっこんで、ピストルをとり出す。
「とりあえず、今ここでおれがふっとぶのをみてて」
自分の頭にあてる。口のはしがつりあがって、息ははあはあしている。
親指でかちりと金ぐを起こす。
「おれおれじょうずにここにきたないのうみそぶちまくからちゃんとやるからきっとほめて」
ピストルは鳴らない。
一度ぜんぶの動きをとめてから、鴎さんはごろんと丸太んぼうみたいにたおれる。
「あほんだらこら、何さらしとんじゃ」
油小路さんだ。ごっついうでを、まだぶんぶんふりまわしている。
「ぼけかす、このはっげえ」
後ろ頭をなぐられて鴎さんは、白目をむいて口からあわを出している。
でもはげてはないんだけどな、ってあたしは思う。
たおれた体をまたいで油小路さんがこっちに来る。ていねいにあたしの体のあちこちをチェックして、ほこりをはらう。
「だいじょぶか、えりすちゃん」
あたしはちょっと首をかしげる。
白いきりの向こうの油小路さんの顔はまっ赤で、まだかんかんにおこってるみたい。
「こないなおもちゃで脅かしよって」
落ちてたピストルをけっとばす。
「えりすちゃん、ちょっと待っててな。僕、こいつ放り出してくるし」
鴎さんの体をかるがるかついで、油小路さんはたてものの中に入っていった。
桜のはなびらの中に鴎さんのめがねが落ちているのに気がつく。
すわったままひろうのは大変だ。あたしは一生けん命手をのばすけど、なかなかとどかない。
やっと、とどいた。
顔を上げると、世界はぜんぶ変わっていた。
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